14 放課後…近づく時空振動の時間
シラバスに頭を悩ませた後(説明を聞いても、あまり呑み込めなかった)昨日と同じく学食で姉妹と待ち合わせた楓達は、用事を済ませるため日向神社へ向かっている。
その前に、もとかと会えたのでHSSへの追加の質問に合わせて連絡先をゲットしたり、というイベントを経ている。
神鎮の森を貫く道は、表参道に対して裏参道と呼ばれており、少し蛇行しつつかなり鄙びた石畳みの道だった。
参道といえども裏なので、玉砂利を敷き詰めているなどの装飾はされていないようだ。
最低限、管理をしているような感じだ。
両脇に木々が迫り少し入り込むと学園のざわめきも、風にさざめく葉の音にかき消される。
「森林浴にはいいわねー!」
美夏が嬉しそうに叫ぶ。
エルフの例に及ばず、美夏は自然に対しての愛着を覚えやすい。
「ああ、そうだな」刀の位置を直しながら楓は両腕を上げて伸びをする。
「ウン、かなりの精霊力を感じる。この森が特別扱いされるわけだわ」
「それに、マナも濃いみたい」美冬も同調する。
嬉しそうに語らう2人を見ながら、楓は周囲の気配を感じ取る。
(ちょっとだけ、嫌な感じだな)
今までに数えきれないほど感じた、嫌な気配を微かに感じる。
それが、過去にこの場所で起きた戦いの残滓なのか、それとも別のものかはわからない。
楓としては姉と妹がリラックスしている今は何が起きても大丈夫なように、楓が注意をしていればいい。
「そう言えば、楓と美冬はシラバスをどうしているの?決まった?」
「いや、それが結構難解でさ・・・」
「私もそんな感じ」
「あら、それなら家に帰ったら一緒に見ようか?あたしはほとんど決まったしね」
「美夏ねぇ、すごい!」
「ふふん」と得意げに微笑む美夏。
3人の中で年上という事もあるが、美夏は読書を通じて情報を処理する事に長けている。
ちょうどいいから、帰ったらコツを聞いて友人達に教えるのものいいな、と楓は思っていたりする。パクリというなかれ。
「それじゃあ、早めに用事を済ませようぜ」
木々の先に神社の本殿や鳥居がチラチラと見えてくる、距離にして400mほどだろうか。
学園のそばの裏参道の入り口から日向神社までは1キロはあるので、結構歩いてきたといった感じで、少し汗ばんできている。
「こういう事があるからアシが必要っぽいな、適度に手に入れないかな」
「そうねー。楓は大型二輪の免許あるし、バイクで美冬と二人乗りをして移動。あたしは普通二輪の免許もちだから、それぞれバイクを手に入れた方がいいかもね」
なお、前に使っていた車両は、実家に帰った時の事を考えて故郷に置きっぱなしにしている。
楓のいる時代では、来訪者の出現によって車両などの免許の取得年齢は以前より低くなっている、条件はいくつかあるが特にブレイカーの少年少女は14歳から取得も可能だ。
それだったら、美冬がなんで持っていないか?という事にもなるが、言いにくいが…いわゆるどん臭い(主に車両)なので、母が許さなかったという経緯がある。
そうバイクの入手をどうするか、と上の空で考えていた楓は携帯端末からけたたましい警報音が鳴り響く。
サッと3人が携帯端末を取り出して、画面を見つめる。
「時空振動の反応が急速に増大、発生場所は多数。この近くでも極大地点の予測…確率は90%ね」
それを聞きながら楓は魔剣の鯉口を切る。
「美夏、美冬。第1戦闘隊形に移行。美夏のピンの結果を見て攻撃か撤退かを決める」
いつもと違って、ビシッとした口調で楓が指示を出す。
ピンというのは、潜水艦のアクティブソナーから来たネーミングで感知魔法を広域に発射をして、その反射からどの程度の敵がいるかを知る方法の事だ。
それによって、物理的や魔法的なそれぞれの属性の来訪者がどの程度いるかをある程度の精度で把握できる。
もちろん、アクティブソナー(またはレーダー)と同様に発信者の存在も来訪者に暴露してしまうリスクがある。
「アクセス!真なるクォーツよ、我が願いによって響きたまえ…」
魔法は当初、簡単な言葉で発動するものから始まった。例えば「炎を起せ!」だと、魔素と術者の精神が呼応をして、現象を発生させていた。
ただ、その方法ではかなり曖昧な指示のため、想像より大きい炎が出てきてしまって家事を起すなどといった暴走を引き起こしていた。
このため、キーワードと呼ばれる魔法言語の研究が進み、必要な魔法を引き出すことに人類は成功していた。(なお、研究は継続している)
美夏の声を聴きながら、楓は森の奥からお馴染みとなっているざわざわという気配が増えていくのを肌で感じつつ美夏と美冬の前に立って、魔剣を引き抜いたのだった。
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