13 話すクラスメイトが増えた

楓がクラスに入ると、座席に昨日は無かったタブレット型の端末が置かれていた。

それを起動したり、内容を見たりしてクラス内がざわざわとしている。

「シラバス…。ああ、時間割か」

宝翔学園は、生徒自身がある程度の授業を選択して時間割に反映する方式を取っている。

端末を起動した楓にアリシアが声を掛ける。

「おはよ、楓も端末を見たのね」

「おはようアリシア。内容は見たのか?」

「ええ、ちょっと早く来たからね。楓はどんな時間割にするの?」

「そうだなぁ。詳しく見ないとわからないが…。魔剣使いだから、それが活かせる授業を受けるつもりだ。実技メインにする予定だから学術系の授業は最低限になりそうだな」

「そっかー。あたしは画面を読んだだけで頭がクラクラしたわよ」

「アリシアは何の科目が苦手なんだ?そこをカバーするか、長所を伸ばすかで変わってきそうだが」

「お、楓もアリシアもシラバスの話をしているんか」

大雅がタブレットを持ってきて話に加わる。

「ああ、だけど説明聞かないと理解できないな、これ・・・」

ずらっと科目が並んだ表を見て、楓がぼやく。

(これ、そもそもインターフェイスが悪いんじゃないのか?)

「なあ、これって見にくくないか?なんていうか、教材あるあるみたいなんだけど」

眼をすがめつつ、大雅が楓の胸中と同じ内容を口に出す。

「ねえ、ちょっと面白そうな話をしているじゃない?」

三人が話し込んでいると、横合いから女子が声を掛けてくる。

「いきなり話しかけてごめんね。あたしはラーニャ・エウルよろしくネ」

目線の先には、褐色の肌に黒髪とオレンジの瞳の少女と、その後ろに隠れるようにして立っている長い黒髪と漆黒の瞳、白磁のような肌の少女だった。

「あ、わた・・・私は小鳥遊ちせ・・・です」

ラーニャと名乗った少女はすらっとしたプロポーションで、身長は160センチ弱、ちせと名乗った少女は小柄で150センチに届くかどうかといった感じだ。

多分、おなじクラスだよな、といった印象しかない楓だった。

「俺は草薙楓、E級魔剣使いとブレイカーをやっている。楓と呼んでもらって大丈夫だ」

握手をする習慣がないので、無礼にならないように自己紹介をする。

「あは、丁寧にありがとうネ」

「で、何の用?」

「ワタシ達も、カリキュラムの件で困っていてさ。良かったら一緒に話し合いながらやりたいんだけど、いいかな?」

「えと、私は魔剣使いだから・・・」

「ちせは、楓が同じ魔剣使いなんで参考にしたいみたいよ」

「ラーニャは、どの生徒のカテゴリに入るんだ?」と大雅。

「あ、俺は梶大雅。呼び捨てでいいぜ」

「あはは、よろしく大雅。ワタシは魔法使いになるのかな、あまり魔力は無いんだけどね。あと、ブレイカーじゃないから、一般生徒に近いカモ?」

「ちせさんは魔剣使いみたいだけど、どんなタイプなんだ?ブレイカーなのかい?」

「あ、私も呼び捨てでいい、です」

「了解」とちせの携えている魔剣を見る。

楓の日本刀とは違って西洋剣のようだ。簡素な鞘に、体格に似合わない長めで幅広の剣が収まっている。

「ブレイカーランクはDで、魔剣士ランクはCで炎系の魔剣を使ってい・・・ます」

「Cって凄いな。俺みたいにイーターじゃないんだな」素直に驚く楓。

どうやら、ちせは見かけと違って魔剣をうまく使えるようだ。


魔剣を使いつぶすためイーター(食いつぶし)と言われて、他の魔剣使いから白眼視される自分とは違う。

「でも、なんとなくだけど…楓君の方が魔剣に詳しそうな気がする」

「買い被りだよ」

「そろそろホームルームだけど、2限目まではカリキュラムの説明の後には、履修入力の相談とかが出来るんだっけか」と大雅。

「そうね、履修の決定は明後日までだからまだ余裕はあるんじゃないかな」

普通科高校であれば、次の日くらいから授業が始まるが宝翔学園では3日の履修登録の時間を取る。

それだけ、内容の読み込みが大変という事でもあって、特に新入生が徹夜をしてしまう姿が良く見られる。

なお、1年生の時に適当にやっていた2年生以上が地獄を見る事は言うまでもない。

お勉強、大事。

「それじゃ、今日の放課後にも集まるか?」

「あ、すまん。今日は姉と妹と予定があるんだ」おどけた仕草で手を合わせる。

「うーん、それじゃできるところまでは、ワタシ達で話そうか」

「そう・・・だね」

「ただ、今日は時空振動の確率が高いから気を付けような」

言外に早く帰宅するか、回避するように伝えたつもりの楓。

「わかったワ」

「あー!それにあたしもまぜて!」とアリシアも話に入ってくる。

「もちろんヨ!」

嬉しそうに答えたラーニャの言葉に重なるように、授業開始のチャイムが鳴る。

それぞれ、教室に入った時とは違い少し明るめの表情になって、自席に向かったのだた。

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