12 楓は朝に強い、美冬も強い、美夏は弱い
楓にとって高校生の2日目はいつもと変わらない朝から始まった。
寝起きが悪い姉と妹を起して、トーストがメインの朝食を素早く作って食卓に広げていると、ちゃんと制服を着てきた二人が食卓に着く。
「おはよ、楓にぃ」
「おはぁよー…」
ちゃんと目が覚めている美冬に対して(ただし寝癖がひどい)、美夏は耳が下を向いており完全に覚醒した感じではない。
「はいはい、早く着替えてくれよな」
二人がそれぞれ、洗面所などに移動するのを見ながら楓は軽い溜息をつく。
「美夏ねぇ、ちゃんと武装はしたんだよな?」
朝食を摂りながら楓が確認する。
「なによぉ、ちゃんとしてるわよぉ…ふぁ」
とブレザーの上着とシャツをめくる、その下にはケブラー繊維を編み込んだアンダーウェアを着こんでいる、要所にはスプリットリング(金属製の輪)を編み込んだ箇所がある。
服の下に隠すため軽装と言えるが、今まで戦って来た来訪者に対しては十分な防御力を持つ。
「そう言えば、気が付いたんだけど」と楓。
「うん?」
「HSSがどんな装備をしているかって、もとかさんに聞いておけば良かった」
「「あ゛」」
結構、入学式のどさくさで抜けているところがあったのを気が付いた兄妹だった。
「日向神社に行く前に、もとかさんかHSSに聞いてみようね」
ぐしゃぐしゃと手櫛で髪を整えつつ、美冬が提案をした。
◇◇◇
明るい日の光の中、3人は通学路を歩いている。
その先には、先ほど岩戸駅に着いた電車から出てきたと生徒達の集団が歩いていた。
「よ、楓!」と闊達な声が背後からかけられる。
「おはよう、大雅」その声に美冬と美夏が一緒に振り返る。
「え…」クラスメイトの楓に声をかけたつもりが、美少女二人にも振り返られて大雅が絶句する。
「ああ、この二人は」
「彼女か?」楓の答えを遮って大雅が言う。
「違うって…。姉と妹だよ」軽く頭痛を覚えながら楓が答える。
そう言えば、初対面の相手だと同様のやり取りをしていたな、と思い出す。
「えぇぇ!?」結構なオーバーアクションを見せる大雅。
「楓?」
「楓にぃ?」
「あーはいはい、ちょっと落ち着こう。まずこっちはクラスメイトの梶大雅。で、こっちは姉の美夏と妹の美冬」
ひとまず、色々とこんがらがって来たので、一気に収拾を図る楓。
「あ、そうなんだ。よろしくね、梶君」にこっと笑顔で挨拶する美夏。
「よろしくです。梶先輩」少しおずおずとしながらも美冬も挨拶をする。
「あ、はい。よろしくデス」
緊張からか、語尾に発音がおかしくなる大雅。
「おい、楓。一気に先輩と後輩が出来たんだけど!」
「落ち着け。とりあえず、二人とも魔法使いだから大雅もよろしくしてくれ」
「…はぁ」
なんとなく、ぼうっとした感じの大雅の様子に「はて、なんなんだろう?」と思いながら姉と妹と別れる。
楓は気が付いていなかった、美夏と美冬が家族以外から見ると相当な美少女(美冬は可憐な感じ)だという事を。
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