11 帰宅と次の日へ色々と準備

目的のスーパーの中に入っても、3人は不意な闖入者とのやり取りを引きずっていた。しかし、色々と買い物の中で他愛ない会話をしていると、その雰囲気も軽くなってきていた。


「楓、難しい話はご飯の後にしましょ。お腹が空いてはいい考えも浮かばないわ」


「・・・わかった」


3人の住居は、宝翔学園から歩きでも20分程度の岩戸駅の近くにある7階建ての中層マンションの最上階の半分を占める部屋を借りている。


もちろん、オートロックと監視カメラは常備されていて防衛レベルは高め。


楓はそれでも落ち着かないので、監視網などに独自のカスタマイズをして防衛力を出来る限り上げているという具合だ。


「ただいまー」


と誰もいない住居へ美冬を先頭にして兄妹は入って行く。


「それじゃ、美冬はご飯の準備するー」


フリルのついたエプロンと部屋着を取り出した美冬が自分の部屋へと入って行く。


「楓はどうする?」


「俺は装備を見ておくよ、時空振動予報の更新もそろそろだから備えておく」


「なら、私の装備も見ておいてもらえる?」


「わかった」


自分達の装備のメンテナンスを楓に任せて、美夏は部屋着に着替えてテレビの前のソファに陣取る。


スイッチを入れると通常の放送が少しの間流れるが、テレビに直結しているパソコンをいじり始めると、画面が切り替わり仕掛けた監視カメラの映像が表示される。


画面の右下には、来訪者の出現の目安となる時空振動予報の画面は出しっぱなしにしているのが美夏のこだわりだ。


「美夏ねぇ。ご飯はそっちにもっていく?」


「うん、ちょっと今日は色々とあったから画面を見ながら食べましょ」


「わかったー。お風呂もいれておくから」


「ありがと」


そうして、居間のローテーブルに夕飯が置かれる頃になると、装備を整備していた楓も居間に姿を現す。


それぞれ、好きなものを食べて色々あった初日の事を話していると、既に時間は9時を超えていた。


「これからの事だけどね」


食後のコーヒーを啜りながら美夏が話を切り出す。なお、楓と美冬は緑茶派だ。


「今日の時点で分かった事では、HSSは敵対する組織ではないわね。気になるのがさっきの聖典旅団」


「そうだな、あれは厄介そうな連中だろう。思わせぶりな事を言っているが、下手に反応すると無駄に情報を与えかねないから、接触されても無視でいいと思う」


「そもそも、あいつらは本物の聖典旅団なの?」


ボディカメラで撮っていた映像を、テレビ画面の一部に表示しながら美冬が疑問を呈する。


「連中の持っていた紋章は本物だよ。そう考えると宗教2世の中でも精鋭が学園に入り込んでいるという事になる」


「あの組織とは前にニアミスはしていたけど、ちょっと厄介ね」


虚空を見ながら美夏がぼやく。


「それなら、母さんのお使い先の日向神社に行ってみない?この地域の敵味方をはっきりとさせるのが先決だと美冬は思うけど」


「うん、そうだな。二人とも聞いてくれ。明日の予定はまず放課後に日向神社に行って母さんのお使いを済ます事を第1にしよう。HSSに入るかについては、少し先にしても大丈夫だろうし」


「ん、わかった。でも一つ追加で」


「なんだ?」


「明日の時空振動予報を見て」


「うわ、この地域は最大で80%…。場所は不明だけど広範囲と放課後あたりから確率が増加するって」


地元で見るより精細な時空振動予報を見て美冬がぼやく。


「なにこれ」


と美冬はその画面に見知らぬアイコンに「シールド予定」と書かれたものがあるため、指を指して画面を切り替える。


「これは…。すごいな、各街区の建物のシールドの強度の予定だ」


故郷では避難シェルターや防衛拠点のみに施されていた対来訪者・物理/魔術結界が、この街では全域にシールドが施されている。


その強度も色分けされていて、青→緑→黄色→オレンジ→赤→紫の順に強度が強くなっていく様子が見て取れる。


「道にはほとんどシールドは無し、建物と重要拠点に張っているようね。建物に来訪者が入り込まないのであれば、かなり楽だわ」


その為に、どれだけのシールド系の魔法使いが投入されているのか、魔力の総量に思い当って美夏と美冬は絶句する。


「自然物、森などはほとんど無しだな。出るとすると道やそういったところに集中しやすいはずだ。このシールド網を作ったのは、そうとう考えて防衛戦を考えた連中ってことだ」


ここら辺は、詳細な情報を知らなかったため楓も戦慄を覚えていたが、同時に脳裏を刺激する知的興味を湧くのが抑えられない。


「この状況だとしてもHSSの戦力もわからない状況だ、戦闘用装備は必要だな。学園の装備制限は何かあったっけ?」


「とりあえず、大量破壊関連の武装はダメ。BC兵器はダメ。銃器は高ブレイカーランクと学園の許可が無いとダメ・・・くらいね。これ、多分内紛を防ぐことと誤爆対策ね」


強大な力を持つと、思春期の少年少女がそれに振り回されやすい事について十分に考えられた制限と言える。


「結構、制限があるんだな。俺達の基準で言う弐式装備で行くか?」


「それでいいと思う。楓は魔剣のカートリッジとできれば2本は持つのを忘れないで、美冬は感知魔術メインより攻撃系の魔法構成を使える装備でよろしく。自前のアーマーは目立たないように制服の下に付けられるものを最大限で用意ね。私はいつもの魔法構成でいくわ」


「りょーかい」


「わかった」


「それじゃ、明日に備えて各自で準備をして休みましょ。たぶん、忙しくなるわ」


多少、物騒な通学初日だったが、3人はだいたいいつもの夜を過ごしていたのだった。

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