5 初めての教室
美夏達と別れて楓が入った教室は、宝翔学園にある6棟の校舎のうち、第6校舎と呼ばれる建物の中にあった。
クラス分けを見ると、美夏が第6校舎のすぐ隣の第5校舎の2-5組、楓は第6校舎のそれぞれ1-1組、美冬は中学棟の3-3組に分けられている。
なお、学年毎には5組までが存在している。
校舎はこれ以外にも、芸術や体育科目の教室を詰め込んだ、それぞれの科を称した校舎があるようだ、部活に必要な部室や、HSS本部や生徒会室が入っている特別な棟もあるらしい。
楓が教室に入ると入学したての教室独特の奇妙な緊張感が漂っている。
楓はそれに構わず自分の名前が書かれた席に座り、生徒会が作った新入生歓迎号とかかれた冊子を見ながら、楓は学園の位置関係を頭に入れようとする。
しかし、横合いからかけられた声に中断されてしまう。
初日から角を立てるのも頭がよくないので若干の怪訝そうな表情をして、その声の方を向く。
「よお、初めまして」
「ああ。何か用か?」
そこには紅色の髪と碧眼を持つ男子生徒が、人懐こい笑顔を向けていた。
「まあ、挨拶ってヤツさ。俺は梶大雅、見ての通り外国の血が入っている。種族は魔法師らしい」
「俺は如月楓、日本人。梶君はイタリアあたりの血が入ってるのか?」
「そりゃ。如月が日本人なのは見ればわかるって」明るい笑い声を上げる大雅。
「だが、俺のルーツを当てたのは、如月が初めてだ」
幾分、賞賛の色を瞳に宿らせて大雅は楓を見据える。
「で、用事は自己紹介だけか?梶君」
「おっと、大雅でいい。俺も楓と呼ばせてもらうがいいか?」
キチンと聞いてくるあたり、常識はあるようだ。
「ああ、構わない」
「さてと、ここはパターン通り、お互いの事を語るか」
なぜ、と言いかけた楓の言葉は、別の言葉に消されてしまう。
「ねえ、それに私も混ぜてくれない?」
2人が振り返ると、そこには薄桃色の髪をツインテールにした小柄なエルフの女生徒がいた。
「いやさ、誰も先に話しださないから、誰か話すのを待ってたのよね」
怪訝そうに自分を見る視線を全く気にせず言葉を紡ぐ女生徒。
可愛らしい外見に反して、かなりぞんざいな口調をするが、不思議とそれが似合っている。
それなら、自分から話せばいいじゃないか、と楓は心の中で突っ込んだが、もちろん口にはしない。
「私はアリシア・フォッシ。フランス系の名前だけど、両親な人間よ。ちょっと前にエルフ化してね。両親からは名前の変更を言われたからつけたわ」
どうやら、途中でエルフ化してしまった子供の事を受け入れられない両親だったのだろう。
この時代にはさほど珍しく無いのだが、今まで家族だったにも関わらず、エルフ化によって別人扱いされてしまった結果、多感な時期に心を傷つけてられてしまう子供も多い事が問題になっている。
「そりゃ、苦労したみたいだなぁ」
「ま、今は前みたいに無視されないからマシになったわよ。それでも家には居づらいから、ここに私だけ来たけどね」
「そうなると寮住まいか?」
「ええ」複雑な表情を見せるアリシア。
「この学園は聞きしに勝る、色々な境遇のオンパレードだな」
楓が一人ごちる。たった2人と話しただけで、普通の学校ではまずありえない境遇の自己紹介をされた。
「ん?お前んちは普通なのか?」
「いや、俺は人間だが、姉がエルフで妹が魔法師だな」
「それは…結構ヘビーじゃない?」
「今までに会った、多くの他人はそう言ってたな。俺にとっては生まれた時と変わりが無い仲だったから、気にしてないな」
「お姉さんエルフ化の時はどうだったの?」
「姉は最初からエルフだったんだ。だから気にした事は無いな」
「そう言う楓は、魔法師じゃないのか?持ってるのは魔剣だろ?」
「ああ、これか」
ベルトに付けたホルスターに収まっている刀を指差す。
「魔剣だが、俺は魔法の素養がほぼ無いから、Cランク魔剣士だよ。それに強い魔剣は使えない」
魔剣は蓄えている魔力が無くなると、魔剣は力を失う。Cランク以下の魔剣士は、魔力の補給手段を持たないため魔剣を使い捨ててしまう事が多い。
それを防ぐには定期的に魔剣を補充しないといけないため、多くの戦場では戦力としては役に立たないとされやすい。
また、そのような魔剣士の事を別名イーターと言う。
魔剣使いと呼ばれる剣士の中では、貴重な魔法武器を消耗する者達の総称…ある意味蔑称として使われている。
ただ、魔剣自体は魔力の補給などで力を取り戻す事もできるものもある。
また、魔剣使いでも魔法に精通していて魔力の補給などの魔法使いながら活躍するものもいるので、そう言った高位の魔剣使いは貴重な戦力として、ブレードマスターと言った称号を得て尊敬を受けやすい。
「まあ、魔力があまり感じられないけどよ。結構年季入ってないか?」
大体の魔剣は、Cランク以下の魔剣士が使うと長くは持たない事が定説になっている。
先述の通り、魔力を補給できる高位の魔力使いは年季を感じる魔剣を持っている事が多いブレードマスターに比べ、真新しい魔剣を持っているとイーターと決めつけられてしまう。
「ああ、こいつは何回か魔力の補充をしているからな」
「それって、結構金かかるんじゃねぇの?」
「知り合いに、付与師がいるから友達価格でなんとかなってる」
「ふうん…」
納得と疑問を取り混ぜた表情を見せたアリシアが再び口を開く。
「そー言えば、楓はブレイカーなの?その紋章はブレイカーズギルドのでしょ?」
目ざとい、と楓は心の中で呟く。
「ん?まぁね、まだ見習いみたいなもんだけど、ギルドには入ってるよ。これが無いと個人だと動きにくいしな」
「そうだねー。でも、入学試験は大変じゃなかったの?HSSにもかなりランク高い人が居るらしいけど、それでも中々大変みたいよ」
ブレイカーズギルドに入っているのと、そうで無いのとでは段違いに様々な活動への介入が楽になる。
元々は警察組織や自衛軍が、対応を放棄していた魔法や来訪者がらみの事件を解決して来た実績の積み重ねで、民間からの信頼を得て、地域によっては警察や軍より権力を持つようになったのが、ブレイカーズギルドだ。
基本理念は、政治的な事項より個人に寄り添った事項を解決する組織である。
財源は寄付や事件解決の報奨金に加え、来訪者の体組織や所持品の販売によるものもある。
「ね、それでランクはいくつなの?」
アリシアは楓がブレイカーだということに気がついてから、好奇心に目をキラキラさせている。
それに対して楓が口を開こうとした時、スーツに身を包んだ担任の男性教師が入って来た。
「皆さん初めまして、私が君達の担任になった、柊三四郎だよろしくな」
年は30代に見える男性教師が、教壇から形通りの挨拶をする。
スーツを着慣れてないのか、わざと崩しているかわからないが、着こなしている感じがない。
「私の専攻は、歴史全般だからカリキュラムによっては、授業で顔を合わせる人もいると思う。この岩戸市の研究をしているから、興味がある人は研究室に来てくれ、歓迎するよ」
簡単な自己紹介のあとは、学園生活や授業の組み合わせについての説明が続くようだ、学園に居るには必要な知識なので、楓は意識を切り代えて教師の話に集中したのだった。
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