一ページ目――白紙から
ここは、どこ?
身体が痛いし冷たい。
耳がキーンって、する。
ゆっくり目を開ける。上には水色の空に白い雲が流れている。
どうやら泥の上に寝ていたのか、私は。…私?私って誰だ。だめだ、頭が痛くて何も思い出せない。いや、そもそも私は何者なんだ…?住んでいる場所は…?年齢は?親族は…?
ふと辺りを見回すと、一台の黒いスポーツカーが近くに停まっていたのでドアに手をかける。すると、ピピっというアラームが鳴り、ロックが解除された。どうやらこれは私の車みたいだ。上着のポケットに手を入れると交通安全祈願お守りがついた車のカギが出てきた。
「…これは。」
車の中を漁ると財布と運転免許証、スマートフォンが出てきた。スマホに映る自分の顔と運転免許証の顔が一致する。
「…木山琴美。20歳女性。」
ダッシュボード下の収納から出てきた車検証の名義とも一致した。さて、どうしたものか。目の前には海。辺りには水たまりと土砂、汚れた道路。
車のエンジンキーを捻ると、グオンッという勢いのある轟音とともにエンジンがかかった。辺りは水浸しなのにどうやらこの車は生き永らえたらしい。そのまま私は感覚が戻らないMT車に苦戦しながら堤防を降りた。
「…せいでん市…?読み方が分からないなぁ。」
運転免許証に私が住んでいたとされる住所が記載されていた。インターネットはなぜか繋がらないので、車載のナビに住所を打ち込む。現在地から約10km程南下した住宅地にあるらしい。
「あとなんか良いもの無いかなぁ。」
車内を見回す。あと車内には工具箱とお米、缶詰、その他非常用物資が数日分積まれていた。
「とりあえずこれだけ物資があれば大丈夫かなぁ…。」
車内で服を着替えて外に出て深呼吸。
「…さて、孤独の自分探し旅、いこっかな!」
堤防を降りて車を走らせる。辺り一面田んぼだが、近くに人の気配が全く無い。音も自然の音しか聞こえないので若干不気味ささえ感じる。
「ほかの人はどこに行っちゃったんだろう…。」
ふらふら辺りを見回しながら走っていたら田んぼ道を抜けて森の中の工業団地の真ん中に出る。しかしここにもやはり人の気配は無い。いや、それどころか車の気配も工場が稼働している気配も無いのだ。本当にこの世界に何があったのだろう、と思いながら惰性で走る。すると車がガァンという音とともに跳ねた。慌ててブレーキをかけて正面に向き直ると目の前には発電所のような施設が立っていた。どうやら今の衝撃は道路上の減速ブロックに乗ったからだようだ。
「うわ…おっきい…。あれ?」
ふと違和感を感じる。周りの工場は人気も稼働している気配も無い。しかしこの施設…。煙突から白煙が上がっている…?
「…無防備な管理職員が悪いんですからね…。」
入口わきにある守衛室で門のスイッチを入れ、私は車ごと敷地に入っていった。
流るる孤島の巡り方 万事屋 霧崎静火 @yorozuyakirisaki
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