第7話 記録⑦ 緊張しまくった

 大使館の人と接した時はマジでガチガチになった。アメリカ大使館のひとり。日本語は出来るが、簡単なものしか出来ない。滞在日の浅い男なのだからそういうものだ。だから当時は英語メインでやった。顔とかそういうのをひっくるめると、爽やか系イケメンだった。爆ぜろ。


「いらっしゃいませ」

「これ全部を頼む」


 テーブルクロスのシーツ。シャツ。ズボン。その他。かつてない量が出てきた。今ならそういう感じだと納得できるが、当時は知らないまま接していたので、驚きしかなかった。


「わ。分かりました!」


 雰囲気で高級な方だと察していたから、当時は高い声で返事をしていた。急いでおばちゃんが確認作業を行っている。


「私はここが初めてでね。どうすればいいのか分からず仕舞いなんだ。だからメモ書きを渡せと、彼から言われてね」


 困惑しながら、俺はそのメモを受け取る。相手も初めてなのか、困ったように笑っていた。ちきせう。こういう時もイケメンはずるい。今だから思うことだが。


「はあ……」


 だいぶ失礼な返事をしながら、メモを見る。カタカナで書いている。アメリカタイシカン。アメリカ……大使館!?


「アメリカ大使館の方ですか!?」


 驚く声を出した。接客ではあまりよろしくないものだが。


「はい。ジェイソン・ブラック。日本に来て、一週間ってとこかな」


 何が何だか分からないと、おばちゃんが傾げている。


「えーっと。この人、アメリカ大使館の方です」

「あらまあ」


 いや。あらまあ。ではない。


「説明がいるわね。佐藤君、よろしく。私はその間に計算とかやっておくから」


 というわけでここのクリーニングの説明が始まる。日本語カンペを英語に訳すという地獄ミッションの始まりだが、だいぶ楽だったりする。最初から考えなくて済むので。


「まず店の人にクリーニングしてもらいたいものを渡してください。その後、色々と確認させていただきます。染みや汚れ次第で戻って来るまでに必要な日数が異なります。忘れ物がある際、発見直後に手渡しします」


 基本的な流れは一般客と同じだが、ところどころ交渉して特殊にしている部分もある。その辺りも話している。周りのクリーニング店がどういう形でやっているのかは不明。正直ここ独自のルールだと思っている。ファーストとか。セカンドとか。分かりやすいように、順番を付けて訳したがどうだろうか。そういうドキドキした気持ちでやっていた。


「確認作業はどのぐらいかかる?」


 想定していた質問が来た。


「量にもよりますが、基本十分程度かかると思ってください。一般客と比べて量が多いですし、とても慎重にやっていますので」


 英語に訳す必要があるとはいえ、カンペはありがたかった。おばちゃんありがとう。


「その後は来店する日時と料金支払いとなっています。料金は大使館宛に請求となり、来店の日時については基本最短という形になっています」


 緊張しているので、とても汚い英語になっていたと思う。それでも聞いてくれる。とても良い人だ。荒々しい奴だと怒っていただろうから。


「なるほど。領収証をここで貰うというのもそういうことか」

「まあそうなりますね」


 この後は発行や手続きとかで、バイトの俺の出番は終わった。あとは静かに見守って、送るだけだった。トラブルはなかった。しかし今までで最も緊張したのも事実。そういうことで、このノートに書いた。

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