第6話 記録⑥ 勉強して積み重ねた結果

勉強してひと月程度が経った頃に実感した。単語を知って、文法も知って、接客でリスニングを鍛えて。そのお陰でお客様と雑談が出来るようになった。夕方になると、買い物帰りで立ち寄る客で並ぶことになる。受け取りがメインで俺が手渡しする形だ。入れたりするので少々時間かかる。そう言う時に軽くお話するのだ。


「バイト! 最近スーパーでフェスがあったのよ!」


 アメリカ出身で金髪の女性。子育てをしているのだそうだ。やたらと興奮気味で英語になっていた。子供は飴を口に入れている。英語で質問をしてみる。


「どういうフェスなんです?」

「タコスよ!」


 アメリカンタコス。噂では肥えるようなコンボもあるのだとか。美味しいので非常に興味深いものだ。


「材料が安く売ってたの! 久しぶりにタコスパーティーが出来て良かったわ! しかも並んでいた時に、良い情報が手に入ったから、安定して作れそうなのよ!」


 そうなるとあれだろう。


「良いお店が近くにあったんですか?」


 そう言いながら、俺は袋に服を入れ終えて、お客様に渡す。


「職場の近くにあったの! だから今度行くことにしたわ!」


 ハイテンションのまま、店から出て行った。次は日本人のお客様で、「元気のいいお母さんね」という微笑ましい笑顔のおばあちゃんだった。国際色豊かだと店の雰囲気は変わりやすい。苦手な人もいるかもしれないが、海外企業の支社がいくつもあるこの街なので、慣れている人が大部分だろう。


「受け取りま……す(日本語)」


 その次はクリーニングに出すお客様だった。布の鞄を受け取って、服を取り出す。おばちゃんがチェックして、お金の合計を伝える。やたらと暗い。差が激しい。黒髪白い肌。健康的な色なのだが、ここまで暗い雰囲気は初めてである。


「ちょっとあんた何落ち込んでるわけ」


 ヘイヘイヘイと言わんばかりのイギリス出身の他のお客様(茶髪の女性)が肩を叩く。英語で話しかけているが、使う言語が分からないため、適当にやっている説を推す。


「推してたキャラが亡くなった……」


 彼女も英語で返答。そして……オタク臭いなと感じた。縁のないイギリス紳士やスーツのおじさまは反応なしというか、理解できていない節がある。話しかけてきたイギリス出身のお客様も似たような感じだ。


「架空上でしょ。気にすることないわよ」


 流石に可哀そうだと俺は助け舟を出す。


「こういう人達にとって、架空どうこうではないんですよ。感情が先に出てしまうと言いますか。その……俺が好きだったキャラ、残酷な死に方だったので、三日ぐらいは食欲なくしました。冗談ではなく、マジであった話。俳優とか歌手とかが亡くなった時と似たようなもんだと思って貰えれば」


 お客様、息を呑んでいた。リアクションでかい。


「私、なんて酷いことを! ごめんなさい。それは辛かったわよね」


 謝罪をしていた。そして何故か女性同士で連絡を交換して、爽やかに終わった。文化や言葉は学習できるし、経験を積めば、上達していると実感できる。ただ……異性の反応は正直未だに予想つかない。店内でスマホの連絡交換は前代未聞である。コミュニケーション。難しい。それでも解決の手助けを出来て良かったと思っている。

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