第4話 記録④ お客様からスペイン語を勧められた
たまに他のバイトの人と仕事をする時もある。同い年の女子学生。軽く話をしていたら、彼女が腐女子であることが判明した。聖地巡礼だとかで、スペインに行きたいらしく、ガチで学習している最中。一応イヤホンなどをしているようだが、稀に漏れているので、俺の耳に届くこともある。何度も繰り返して覚えるタイプなのか、こちらも簡単なものを覚えてしまった。
「ブエノスディアス!」
だからか、常連のラテン系っぽい人(俺のド偏見)がスペイン語で挨拶をしていることをようやく理解した。
「ブエノスディアス。いらっしゃいませ」
某有名な北欧家具メーカーの青い袋にスーツとシャツ。いつもの彼のスタイルである。日本語を使える人なので、基本的に日本語で接する。穏やかにおばちゃんと楽しそうに話す印象が強いのだが、今回は少し違った。
「返してくれた!」
実に嬉しそうだ。言われてみれば、挨拶を返すのは始めてだった。
「グラシアス! グラシアス!」
学習していなくても知っている。感謝の言葉だ。
「いやただ返しただけですよ?」
「母国の言葉を使ってくれるだけでも嬉しいものなのさあっと。いつものを頼む。それと聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」
スペイン語を母国とするお客様は数年以上も日本に住んでいるからか、日本人化が進んでいる。青い袋を持ち上げる時に「よいしょ」みたいなものを発していた。どれだけ濃い人でも適応するものなのだろうか。向こうの文化とか食事とかどうなっているのだろうか。そういった疑問を持っていた。短期留学でも挑戦するのもありだと感じたのもこの頃だったと記憶している。
「何かしら」
おばちゃんが対応をする。クリーニングの簡単な裏方仕事をメインとしている俺は静かにする。
「フラメンコ衣装のクリーニングって出来る?」
フラメンコ来た!
「出来るわよ。ただし、いつもより倍以上のお金を出すことを覚悟した方がいいわよ」
おばちゃんが値段を提示。お客様は大袈裟に頭を抱える仕草をする。その割に楽しそうな顔だ。
「予想はしてたけど、高いね! ありがとう! 出せるだけでも収穫だ! ああ。そうだ。若い君! スペイン語、かなりおすすめだからね! 世界でも使っている人は多い方だから!」
珍しくハイテンションで店から去った。調べてみたところ、スペイン語を使っている人は結構多いことを知る。世界史を学んでいた身だったので、理由は何となく分かる。バイリンガルを目指すというのもありか。そう思ったきっかけだった。いや。これを記して、就活で使えるわけではないのだが。
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