第2話 記録② ランニングお姉さん
再び英語を使う機会が出てきた。日曜日の午前九時前。店装を季節物に変えていた時だった。
「Oh my god!」
黒人と呼ばれるぐらい、肌が黒い美人女性。キャップを被って、ランニング姿という、とても活動的な方なのだろう。自動ドア越しでも見えて聞こえるリアクションのでかさ。こういうタイプはどこでもいるみたいだ。そして何故かそのまま突っ込む勢いで店に入って来た。
「Hey! Boy!」
目と目が合ったら○○勝負というわけではないが、合った結果、話しかけられた。ボーイという年齢ではないと思うが、英語で突っ込むことが面倒なので何も言わない。ぐえ。両肩を掴まれて、ゆっさゆっさと俺を揺らし始めた。おばちゃんは笑って何も止めてくれない。英語は簡単なものなので、理解はできる。
「スニーカーのクリーニングもやってるの? ポスターに写真あるんだけど!」
それよりも声がデカすぎて、耳が壊れそうだ。
「ボイス。スモール。プリーズ」
おばちゃんが助けてくれた。簡単な英単語のみだが、それでも察したのか、女性はボリュームを下げてくれた。
「あら。ごめんなさい。近くだとなかったものだから」
というような感じで、謝罪と事情説明(英語で)があった。おばちゃんは女性の靴を見る。うーんと悩む仕草を取っていた。手招きをしていたので、俺はおばちゃんのところに行く。ひそひそ話をする。勿論日本語で。
「これ高級スニーカーでしょ? 流石にウチだと取り扱えないわよ」
何が問題なのだろうかと、俺は疑問を持つ。
「え? でもスニーカーですよね」
「そうなんだけど、少し不向きだと思うわ。ここに来て、何もしないというのもあれだし。同じ会社運営の、靴専門を紹介ね」
ごそごそとおばちゃんは何かを探す。
「お客様、高い靴なら、専門に任せた方が良いですよ。駅ビルとかにあるから、近いところで出してください」
モロに全部日本語である。ポスターを渡しているが、女性は理解出来るのだろうか。何かを言っている。懸命に耳を立てる。なるほど。つまりはこういうことだ。
「つまりは靴のプロに任せろと。初めて知ったわ。あの駅ビル何回も行ってるのに」
お客様はここで衝撃的な事実を知ったみたいだ。クリーニング店とはいえ、工場に集めてやっている方式なのだ。店が小さめでも集めれば問題なし。だからこそ、見逃していたのかもしれない。駅ビルの端っこにあるので、余計に見落としやすいことを俺は知っている。
「アドバイスありがとう」
彼女は前向きに言って、ランニングに戻った。笑顔の威力はいつだって、強いのだ。就活で使えるネタ探しなのに、何を書いているのだろうか。
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