佐藤君は思い返すー海外のお客様と頑張って接した時の記録
いちのさつき
第1話 記録① イケオジっぽい外国人と接する
佐藤和人という俺はオタクで根暗でコミュ障な野郎だと思う。生涯いじめられていないことに驚き……ということはどうでもいい。就活のネタになるかと思って、記しているのだから。
高校生の頃は英語を勉強して、大学受験で有利になるように英検という資格を二級まで取った。そのお陰で落ちたものの、推薦入試参加の切符を掴むことが出来た。結局一般入試で大学に入って、四月早々親父から宣言を喰らったのだ。
「大学になったから、小遣いをあげない」
と。これは非常にヤバイと思った。バイトを早くしないと、色々な意味で枯渇する。歓迎会やサークル活動、ソシャゲの課金その他諸々。イベント会場のスタッフが人気なのだが、こういう陰キャでは……というか、それ以前に倍率が高いため、落ちるものだ。仕方なく、近場でやる方が良かったりする。出来れば緩い方がいい。
「あ。あったわ」
そう思ってブラブラしていたら、案外見つかった。全国チェーンのクリーニング店。海外出身のお客さんに合わせたニーズもやっている。そういうお店だ。履歴書という書類と面接であっさり通って、バイトとなったわけだ。裏方なのでお気楽だと思っていた。初日にのんびりとしていたから余計に感じていたのも大きい。ガラリと変わったのは午後三時ぐらいか。時間はそこまで覚えていない。
「佐藤君! 接客手伝って!」
最近染めたと言っていたおばちゃんが裏方にやって来た。突然のことだから、背もたれのない椅子に座っている俺はキョトンとする。
「……何故俺が」
「英語喋れるでしょ? 二級持ってるんだから」
頭を抱えた。たまに英検二級持っているのだから、英語はペラペラだろうと勘違いしている輩がいる。そういう奴らに言いたい。それなら今の日本の英語教育で議論なんてやらないだろうと。もう少しインターナショナルになるだろうと。そういう突っ込みをしたい。しかし、ここでそれを言うわけにはいかない。何せ雇われの身なのだ。
「あまり期待しないでくださいよ」
よっこらせと立ち上がる。流石は海外の支社がいくつかある街だ。まさかバイトで英語を使うことになるとは……思ってもみなかった。不安の思いで、表に出て、お客様を見る。
お客様はイケメン、というよりダンディな金髪の男性だった。ド偏見だが、金持ちっぽい。冬が終わったので、コートやジャケットを綺麗にしたいのだろう。ついでにいつものようにシャツのクリーニング。おばさんが手にしている物から察した。また、日本語での会話は日常レベルではないみたいだ。だからこそ、恐らく俺をコールしたのだろうけれど。
「これ染みがあるのよね。だからこの二つは最短十日後なのだけど」
どう伝えればいいのか分からない。おばちゃんはそれを言いたのだろう。英語は学習している。簡単な会話ぐらいなら出来る自信がある。そう思っていたのだが、染みって英語でどう言うのだろうか。日常会話で使うような単語すら浮かばない。いや。ここで立ち止まってはいけない。
「コートアンドジャケット」
たどたどした英語になって恥ずかしいが、金を貰ってこそ商売なのだ。頬が熱くなりながらも、頭を動かしていく。とりあえずジャケットの染みっぽいところを指す。
「remove this」
絶対違うと思うが、似たような意味なら通じるだろう精神でやってやる。
「finish 10days later」
カレンダーや料金表も使う。お客様はこういうことを言ったのかもしれない。
「染み抜きがあるから遅れると。それで受け取れるのはこの日なんだね」
ただ俺は肯定する。
「Yes」
ざっくばらんな俺の翻訳だと、お客様はこう言っているだろう。
「分かった。それでいい。いくらかな?」
この辺りになると、おばちゃんも理解しているのか。素早く機械を使って、合計金額を画面に出していた。お客様は財布を鞄から取り出していた。どれも質が良さそうだ。
「シャツは明日?」
「そうなります」
「分かった。ありがとう」
お金を払ったお客様は颯爽と去った。至らないところが多い。そういった英会話だったと感じている。
「佐藤君、助かったわ」
それでも通じれば問題ない。この時代は日本語以外も使うかもしれない。オタク活動だって例外ではない。そうなると……研鑽するしかないのか。そう思ったバイト初日だった。
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