(三)-7
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「あの一刀斎と同じ姓じゃろ? あんお人は伊豆大島の出身で、相当な苦労をしてあそこまで上り詰めたちいうからのう。こいも何かの縁じゃ、おはんきっと、良か武士になれっど」
伊藤一刀斎景久。
かろうじて引っかかるような有様とはいえ武士の端くれであり、剣術にも打ち込んだ身として俊輔もその名は知っている。しかし、自分の姓と結びつけたことは一度もなかった。
もともとが養子先の姓である上にありふれているし、関係はまったくないだろう。しかし、柳生新陰流と並んで公儀剣術師範である上に、柳生と異なり多く分派して人口に膾炙し、今や剣術それ自体の象徴のようになっている大流派の創始者と同じ姓だと思うだけで、営々八百年積み重ねられた武士の誇りと力強さが、熱い奔流となって己の中に流れ込んでくる気がするのだった。
それと同じ温度をもつものが目から流れ出た。俊輔は下を向き、何度も指で拭った。しばらくして気が落ち着いたと見たのか、大久保が「よし、金打じゃ」と言い、腰から刀を鞘ごと引き抜き突き付けてきた。
「きん……?」
「武士同士の約束の作法じゃ。刀の鍔と鍔を打ち合わせて、堅く誓い合う」
俊輔はおずおずとした動作で、自分の刀を引き抜いて鞘の鍔の下の部分を握った。ふと顔をあげると大久保の顔が、目が、かつてない強い印象をもって飛び込んできた。黄金色がかって明るいが、深みのある澄んだ茶色。間近でこの目を覗き込み、まじまじと見つめられる立場の人はなんという果報者だろう。
俊輔のかすかな狼狽をよそに大久保は、「武士と武士、男と男の約束じゃ、お互い懸命に生きて大志を叶え、こん国に尽くそう」と言い、俊輔の刀の鍔に自分の刀の鍔を当て、離した。
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