(二)-2
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協力してことにあたるという名目のため両藩の人や手紙の往来は久光の江戸到着の前から盛んになり、俊輔は長州藩の足軽としてその伝令の役を務めていた。
使いの役目は今に始まったことではなく、江戸の藩邸に赴任してから実に三年以上にもなるが、炎天下や大雨や雪だろうと、数里の道を急ぎ足で他藩の屋敷に行き、すぐ戻らねばならないのだ。
手紙や口上を受け取る相手藩の武士は、使者の足軽になどろくに口を利かず目も合わせない。それが当たり前だった。そうではない武士に出会ったのは、俊輔にとってはこの夏が初めてのことだった。
薩摩の大久保一蔵。まだ三十をいくつか越えたばかりに見える少壮だが、薩摩の若手藩士の束ね役にして、久光の側近を務める切れ者という評判だった。
六尺はある長身だが、色白で端正な面差しの上に鶴のようにすっきりと痩せて、見た目の重苦しさはまったくない。言葉はかなりきつい薩摩なまりなので生粋の薩摩人なのだろうが、薩摩者は乱暴者ぞろいという俗な風説とはかけ離れた物腰だった。
手紙を渡したり口上を述べたりする俊輔の顔をじっと見て、終わればうなずき、「ご苦労じゃった」と微笑を込めて何かしらの言葉をかけてくれる。
それだけで俊輔にとっては舞い上がるほどの喜びだった。毎回訪問のたびに出会うわけではないが、途中からはっきりと、出てくる相手が大久保である場合とそうでない場合を、「当たり」「外れ」と分別するようになっていた。
そうして二ヶ月以上が経過した。薩摩と幕府の上層部同士で色々と折衝があり、大久保もかなりの働きをしたらしいが、当初の目的である一橋公の将軍後見職就任、越前公の政事総裁職就任は実現したという。俊輔にとっては雲の上を通り越して完全に異世界の話だ。
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