第3話

カーナビから流れてきたニュースは、衝撃的な内容だった。冥王星の幹部が、テレビ番組でコメンテーターを務めていた男性を射殺したという。その男は、達也にとっても馴染みの顔だった。歯に衣着せぬ発言で、多くの人から嫌悪感を抱かれていたコメンテーターだ。


 達也は、思わず吐き気を催した。あの男は、確かに不快な存在だった。しかし、だからといって殺害される理由はない。ましてや、犯人はまだ青年という年齢だ。


「おい、海斗。これは何だよ?第一、子供がなんで拳銃を持っているんだよ。よく見ると、公安の拳銃じゃないか……」


 海斗は、冷静な声で答えた。


 「公安で支給されているH&K P2000を青年が持っている。それが気がかりでいた。可能性を信じたくないが、公安内部に冥王星とつながっている者が居るかもしれない。」


 達也は、言葉を失った。仲間である公安の中に、協力者がいるという考えは、到底受け入れられるものではなかった。


「海斗、それは信じたくない。だって仲間だろ。」


「まあな。可能性の話だからね。あくまで。こっから現場は近い。急いでいくしかないな。老人は後回しだ。老人には悪いけど。」


 海斗は、達也の言葉に力強く頷いた。


 海斗は、急いでハンドルを切り、アクセルを踏み込んだ。車は、テレビ局に向かって猛スピードで走り出した。


 現場に到着すると、あたりはすでに騒然となっていた。警察官や報道陣が現場を囲み、緊迫した空気が漂っている。


 

 黄色い警戒線のテープを潜り抜け、海斗と達也は現場へと足を踏み入れる。すると、鋭い眼光を放つ警察官が二人を制止した。


「関係者以外立ち入り禁止です。」


 達也は、冷静な声で切り返す。「公安です。」


 その一言で、警察官の表情は一変する。緊張が解け、敬意を込めた声音でこう答えた。


「失礼しました。どうぞお通りください。」


 頭を下げ、道を譲る警察官。その背後に広がるのは、異様な光景だった。


 人々の顔が死んでいた。中には恐怖に怯え、泣いている者もいた。


 テレビ局の明るい雰囲気は消え失せ、重苦しい空気が漂っている。


 達也と海斗は、奥へと進んでいく。奥の部屋には、二人の警察官が立っていた。


 その部屋の扉には、大きく「報道局長室」と書かれている。


 達也は、深呼吸をして、ドアノブに手をかけた。


 そして、静かにドアを開けた。


 部屋の中央に据えられた机の上に、拘束された若者が座っていた。その若者、田中圭太の顔は自己満足そうににやりと笑っており、その笑みには不思議なほどの落ち着きが漂っていた。まるで彼が何か大きな楽しみを見つけたかのように。しかしその落ち着きは、彼がたった今人を殺したという事実を考えると、異常なものだった。

 

「公安の刑事、黒崎達也と木崎海斗です。お話を伺いたいのですが」


 圭太は落ち着いた様子で手錠をかけられた手を動かし、挨拶した。


「私は冥王星の幹部、田中圭太です。何か質問があればお答えします」


「では直截に尋ねますが、なぜ殺したのですか?怒りからですか?生放送だったので」


「怒りもありますが、それ以上に教祖の指示に従っただけです。この国はいずれ地球外生命体に侵略されます。もはや時間は残されていません。そのためには邪魔者を排除するしかありません。国を再建し、以前の栄光を取り戻すのです」


 海斗は座り、圭太に尋ねた。


「教祖の指示ということは、命令だったんですか?」


 「そうです。教祖様の命令です。」


 達也は袖を捲り、机の上に両手を置き、拳銃を見せた。


「この銃と同じようなものを持っていましたね。どこで手に入れたんですか?」


「太陽の文字からです。彼らから入手しました。この団体とは達也さんは深くかかわりがあるのではないですか?」


「……なんでそのことを?」


「教祖様もあの地下鉄にいたのですよ。だから知っている。もう僕の役割は終わりましたね」


 圭太は手に隠し持っていた針を口の方に飲み込み、笑いながら血を吐いた。急いで手錠を外した瞬間、達也と海斗は圭太が机の上に置いた拳銃を突如として手にし、彼らに向けて押し出した。


「ここから逃がしてもらいますよ」と圭太が告げると、扉の方から警護に当たっていた二人組の警察官も拳銃を引き抜き、達也と海斗を睨みつつ言った。


「私たちも冥王星の教祖様の仲間ですよ」と彼らが自らの忠誠を示す。


 達也と海斗は互いを見つめ合いながら口にした。


「冥王星は学生の宗教団体じゃないのかよ。大人が関わっているじゃないか」


 圭太は歩きながら扉の方に行きながら言った。


 「彼らは冥王星の仲間なのですが厳密にいえば、太陽の文字の残党ですね。なので学生の宗教団体で大丈夫ですよ」


 太陽の文字の残党と聞いた瞬間、達也の心には過去の悲劇が瞬時に映し出された。死にゆく家族たちの姿が生々しく目の前に浮かんだ。


 逃がすわけにはいかない、という決意を胸に秘め、達也は海斗の拳銃を悟られぬように巧みに抜き、警察官二人に向けて突き出した。


「お前たちだけ逃すわけにはできない」


 しかし、警察官二人はその言葉を無視するかのように扉を開き、圭太の後を追って外へと消えていった。

 


 

 


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