第2話

夕刻のニュース番組。コメンテーター席に座る佐藤健太郎は、得意げな笑みを浮かべながら、こう語った。


「大体、あの教団は怪しすぎるんですよ。第一、運営しているのが子供ですよ。馬鹿馬鹿しい。第一、テレビをジャクしてましたからね」


 画面に映し出されたのは、近年話題を集めている新興宗教団体「冥王星」。運営者たちはまだ十代とみられる若者たちで、その奇抜な教義と活動内容は、世間から様々な憶測を呼んでいた。


 しかし、健太郎にとって、冥王星そのものへの関心は薄い。彼の真意は、日々のストレスのはけ口として、この話題を利用することにあった。


 上司からの理不尽なパワハラ。同僚からの陰湿な嫌がらせ。長年溜まりに溜まった鬱憤を、彼は冥王星という標的を通して吐き出していたのだ。


「あの連中は、宇宙人だのなんだのと言っているけど、結局は金儲けが目的なんじゃないか。まともな人間が騙されるわけないですよ。」


 健太郎の言葉は、視聴者たちの間に不快感を漂わせる。しかし、彼はそんな声など気にせず、高圧的な口調で言葉を続けた。


「世の中にはもっと深刻な問題があるのに、こんなくだらないものに惑わされている場合じゃないんですよ。」


 司会者の一人が言った。


「実は、ゲストとして冥王星の幹部の田中圭太さんをお呼びしています」


 司会者の言葉が会場に響き渡り、緊迫感が張り詰める。健太郎は心臓が早鐘のように鼓動するのを感じた。冥王星の幹部、田中圭太という名の男がゲストとして招かれたのだ。プロデューサーからは聞いていなかった。しかし、これは千載一遇のチャンスだ。長年溜まりに溜まった鬱憤を、この場で思いっきりぶつけてやる。


 奥のカーテンが開き、スラリとした体形の圭太が現れた。目にはクマが濃く、学生服を身に纏っている。まだ幼さが残る顔立ちだが、どこか鋭い眼光を放っている。


 健太郎は内心、冷笑を浮かべた。幹部といってもまだ子供。人生経験の差は歴然だ。舐めてかかっては痛い目を見ることになるだろう。


 

 静寂を破るように、田中圭太の澄んだ声が響き渡る。「どうぞよろしくお願いします。私は冥王星の幹部をやらせていただいております、田中圭太と申します。」


 佐藤健太郎は、皮肉を込めた声音で切り返す。「よろしくね。第一、なんで冥王星は宇宙人が攻めてくるって言ったの?意味が分かりません。そんなん信じているなら勉強したらどうですか。」


 圭太は、静かに微笑みを浮かべながら答えた。「地球外生命体が攻めてくるのです。そんなのことが起きたら日本は惨劇になります。」


 健太郎は、苛立ちを隠せない様子で声を荒らげる。「だから質問の回答になっていないでしょ?証拠はあるんですか?」


 圭太は、一瞬沈黙し、静かに言葉を紡ぎ出す。「エビデンスなんて必要ないですよ。教祖様がそう仰っていたのですから。」


「教祖が言っていた……。なんのエビデンスがあって?」


「エビデンスは必要ないのです。信じるか信じないかはあなた次第です。」


 佐藤は、勝利を確信した。所詮、まだ子供に過ぎない。


「証拠は必要でしょ。第一、そんな教祖が言ったのでってそんな馬鹿が言っていたこと信用するなんって馬鹿げてるでしょ!」


 圭太の表情が、一変する。


「馬鹿……教祖様がですか?」


 静寂が再び訪れ、張り詰めた空気が会場を包み込む。


 次の瞬間、田中圭太は制服の奥から拳銃を取り出し、佐藤の眉間を打ち抜いた。


「邪魔者は消していきます。それが日本のためになるからです。」


 銃声の轟音が響き渡り、鮮血が床に染み広がる。

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