第31話 リザルト&遅れてきたパイロット


 黒木修弥がイフリートを単機で撃破した。

 その事実は、世間には捻じ曲げて報告される。


 天2軍学校の生徒たちが訓練中、突如としてハーベストの襲撃を受けるもこれを撃退。

 妖精級を8体も倒す大戦果を挙げた。


 ほどよく調整された戦績はそれでも世間を賑わせ、各地で称賛された。


 我らも続け、備えろと。

 各地の軍学校、そして前線の生き残りたちを奮起させる結果となった。


   ・


   ・


   ・


 そんな未来が訪れるのはまだ遠く、現在いま

 戦いの決着がつき、それから幾ばくの時も経っていない、そんな折。


 正しい報告を受け取った、日ノ本の最深部たるその場所で。


「それは、それは本当なのか!?」

「えぇ、間違いありません」


 真の戦果は驚きと、歓喜をもって受け止められた。



「黒木修弥。やはり彼こそが、我々が待ち望んだヒーローであったか!」

「うむ。在野の者でありながらこれだけのスペックを発揮したのだ、間違いあるまい」

「窮地に陥り精霊拳に覚醒したとも聞く。ならば疑いようもない」


 陰陽師を思わせる出で立ちに、烏帽子から垂らす紙の面で顔を隠した一団。

 彼らは世界の真実の一端を知り、世界の存続のために苦心し続ける一族だった。


「ついに、我々の悲願が達成される!」

「この戦争に終止符を打てる!」

「建岩のお役目、今こそ果たすとき!」


 隈本御三家がひとつ、建岩家。

 “神秘の建岩”の名を冠する、古きから今に備え、戦い続けてきた者たち。


 日ノ本の……人類最後の守護者たる、要の者たちは。


「決戦の時は近い! 今一度覚悟の決め時ぞ!」

「応っ!」


 ついに見えた絶望たたかいの終わりに、心の底から闘志を沸き上がらせていた。



「いやさ。このような吉報、こんなにも早く届けていただき感謝する」

「いえいえ。この報告はどこよりも早く皆様に届けたかったので、1番乗りできて何よりです」


 沸き立つ者たちを遠目に眺めながら、二人の男が言葉を交わす。

 一人はこの場の大勢と同じ、陰陽師然とした顔を隠した老体。


 そして、もう一人は――。



「――本当に、貴方がたにはどれほどの感謝を捧げねばならないか。“白の”一族殿」

「ははっ。お気になさらず。すべてはこの世界を“赤の”一族から守るため、ですので」


 先ごろ。

 防衛大臣の隣に立って報告をしていた、白衣の男だった。



      ※      ※      ※



「どうぢでごんなごどずるんだよぉぉぉ~~~!!」

『無茶ヲシタ罰デス。反省シテクダサイ』


 戦い終わって、リザルトは出た。

 敵勢力26体ことごとく撃破。味方勢力被害0!


 完璧な勝利……だったはずなのだが。


「べづにぞっぢはいだくないだろぉぉ~~!?」

『ソウデスネ。デスガ機体ハ損傷シマシタ』


 俺は今、契約精霊の一人であるヨシノから望まない反動ダメージをぶつけられ、両腕の痛みに泣いていた。


(ぐおおお、おかしいっ! 殻操技能レベル3あれば、反動ダメを無視できたはずぅぅ!?)


 契約精霊の意志で適用するしないを選べるとか、聞いたことがねぇってばよ!


「んぎぎぎ……!!」


 腕をつった時みたいな痛みが、両腕をビッキビキに駆け回ってやがる!



「あんまりだぁ! ヨジノざぁん!」

『筋肉痛の早急な治療には、救護車で湿布を貼って頂くことをお勧めします』


 定型文~!


「うぅ、ぢくしょう……」


 無慈悲なシステムメッセージに、けれど従うしかない俺は本陣に足を向けた。



(しっかし、まだまだ甘かったな……)


 今回経験した実戦。

 思い返せば色々と、反省点が見えてくる結果だったと今にして思う。


(ゲームで実戦投入早められるイベントがあるんだから、今回みたいな状況は想定しとかなきゃだったよなぁ)


 折角、佐々家、天常家と後ろ盾があるのだから。

 建岩家の動きに対して後手に回らないよう、手を打つこともできていたはずなんだ。


(あとパイロット! やっぱりパイロットが欲しい!)


 今回みたいなピンチに、チート整備士佐々君が巻き込まれるのはマジで避けたい!

 帰ったら、本格的に西野君育成計画を進めねばなるまい。


「よし、次はもっと鍛えて、もっと効率よく敵を殲滅するぞ! いぢぢっ」

『――……』


 出てきた反省を生かして、次はより楽しいハーベスト狩りにしたい。


 すべては我が、愛しき推し。


 黒川めばえちゃんのために!!



      ※      ※      ※



「あ、黒木――」

「すまない。先に治療を受けるんで、後にしてくれ」

「――そ、そうか。わかった! ……やはりみんなのために、身を挺して……」


 なんか話したそうにしてた佐々君たちを、FESの好感値下げがてらスルーして。


「お邪魔しま~す」


 俺は指揮車の後方に待機していた救護車へと向かい、治療を求めた。


「すいませ~ん。腕バッキバキにされたんで湿布貼ってくださ~い」

「………」

「あの?」

「あっ、は、はい! すぐに対処します!」


 救護車の中には、Bクラスの生徒が一人いた。

 天2の生徒たちから“保健ちゃん”と呼ばれ親しまれている子だった。



「契約鎧を脱いでくれますか?」

「はーい……あ?」


 佐々君の青髪が水属性なら、空属性とも言うべき青味がかった白い髪。

 近づくとふわりと甘い香りがして、なんだか懐かしいような、ザワザワするような感覚がある女の子。


 どこかで見たようなバチクソ可愛いこの子を見て、俺は――。



「? どうかしましたか?」

「……マジか」



 ――どうしてこんな重要な存在を見落としていたのかと、心の底から後悔した。



 ヴンッ!


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 超常能力“他者ステータスの閲覧”を行います。


 対象に超常能力“隠れ身”の使用を確認……突破。

 ( )に正しい数値、技能レベルを併記します。


   ・


   ・


   ・


 Name:スズシロ・ホノカ Age:15


 【Status】

 体力 :456/518〔S〕(1056/1118〔S〕)

 気力 :472/606〔S〕(872/1006〔S〕)

 

 運動力:512〔S〕(1012〔S〕)

 知力 :480〔A〕(780〔S〕)

 魅力 :268〔C〕(468〔A〕)

 感応力:190〔D〕(990〔S〕)

 士気 :67〔F〕


 【所持技能】

 殻操0(3)・格闘0(3)・射撃0(3)

 狙撃0(2)・夜戦0(2)・隠密0(1)

 事務1   ・医療2   ・情報1(3)

 家事2   ・歌唱1   ・話術1

 同調1(2)・幻視0(1)・幸運0(4)

 戦士0(3)


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「……パイロット、いるじゃん」

「え?」


 佐々君の代わり……見ぃつけたっ!

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