第4章 偶像備品少女、九條巡!

第19話 力は使ってこそ世に巡る


 オッス。

 俺、黒木くろき終夜しゅうや(自称)!

 絶賛改名布教中の転生者だ!


 前世で最推しキャラだった“踏み台型ラスボス少女”黒川くろかわめばえちゃんのいる、大ヒットメディアミックス作品、ハーベストハーベスター(略称HVVハベベ)世界に、ゲーム開始前に死ぬモブとして転生した俺。

 ゲーム開始まであと1年。入学した天2あまに軍学校で、有力者である隈本くまもと御三家の内二つ、佐々さっさ家&天常てんじょう家の次期当主達と仲良くなる事に成功する。


『唯一無二……吐いた言葉は守ってもらうからな!?』

『貴方を全力で生かすべく、あらゆるサポートをいたしますわ!!』


 佐々君に続き、天常さんからも支援の約束を取り付け、順風満帆な俺。

 けれども油断はしない。


 来年発生する天久佐あまくさ撤退戦で死ぬ運命を乗り越え、ヒーロー&ヒロインの踏み台にされる推しの運命を変えるため、今日も朝から限界突破の訓練だ!


「やぁ、黒木。今日もこのボクが付き合うよ!」

「オーッホッホッホ! おはようございますですわ、黒木さん!」

「おはようございます。黒木さん。本日から、お嬢様と私もぜひ早朝訓練に加わらせて下さい」


「………」


 朝活仲間が増えました。



「ぜはっ、ぜはっ、は、はは! ど、どうだ黒木! ら、ランニングは、乗り越えたぞ!」

「ひ、ひ、ひぃ……こ、こんな、常に天のいただきたらん、この、わたくしが……!」

「はぁ、はぁ、黒木さんのトレーニングが、まさか、これほどとは……」


 公園に集う、学校指定のジャージを纏った4人衆。

 見る人が見れば、案外と平和な朝の部活動風景にでも見えるかもしれない。


「ふ、ふふふ。どうした天常輝等羅きらら。芝生に尻を置くなんて、天常家の名が泣くぞ?」

「ほ、ほほ、ほ! あーら、そう言う貴方こそ、生まれたての小鹿のように膝がカクカク笑っておいででしてよ? 佐々千代麿ちよまろ?」


 お互いプルプルしながら言い争う佐々家の御曹司と天常家の御令嬢。


「御覧の通り、お二人は幼馴染でして。事あるごとに競われては、ああして研鑽を積んでいらっしゃるのです」

「なるほど」


 公式設定資料集にも書かれてなかった情報、マジでありがとうございます従者さん!

 考察勢としてはその手の話は大好物であります!


 ちなみに彼女、細川ほそかわなぎささんについても公式設定資料集にはノーデータだ。

 天常さんの腹心っぽいけど、天常さんの出番があった小説版の九洲撤退戦では影も形もなかったんだよな。


(今の天常さんと、小説版の天常さん。1年半くらいしか時差ないけど、全然振る舞いが違うんだよな。小説版の方が鬼気迫る感じで……)


「細川! 貴女からも何か言っておやりなさい!」

「主を諫めるのもキミの立派な役目だろう、細川!」

「ハッ、お二人は今日も仲がおよろしいですね」

「「Why!?」」


 ……色々とお察しだが、今世ではそうならないよう願ってやまない。


 出来れば今後も彼らには、こうやってワイワイ騒いでいてもらいたいもんだと思った。



「……んっ、ふっ。そういえば、黒木ぃ、さんっ。例の準備、整いましてっ、よっ」


 細川さんに押されて豊満なボディをべチャッと地面に押しつけながら、天常さんが言った。


「え、早いな」

「んぎっ! ま、黒木待て待て待って黒木まっぴぎ!」


 俺は佐々君を同じように地面に押しつけながら、歓喜する。


「ふふっ、この天常家のバックアップがあれば、んっ、この程度、ふっ、余裕でしてよっ」

「んああっ、く、黒木、こ、このボクの助力もあったことを、わ、忘れるなんんっ!!」

「あぁ、二人とも感謝だ」


 佐々家と天常家。

 隈本御三家の内二つの後ろ盾が得られたとなれば、ぶっちゃけ小隊規模ならやりたい放題できると踏んだ俺の読みは、大当たりだった。


(特に二人が組んだ事で、佐々家が各所への根回しを、天常家が資金援助をと役割分担して、よりスムーズに事を進められるようになったってのがデカい)


 俺はステータスこそ自慢だが、まだ前線に出て戦果を挙げられない戦士候補生の身分だ。

 だから現状稼ぎようがない権力と財力を、既に持っているところから借りれるようになったのは、超がつくほどありがたかった。



(おかげで、思いついたことをさっそく実行に移すことができる!)


 天2軍学校の候補生たち。

 将来的に、俺と共に侵略者ハーベストと戦ってくれる仲間達。


(彼ら全員のステータスを今から鍛え上げ、いざ本番となった時の生存力を上げる!)


 この戦いは、目先の戦闘に勝つだけじゃ終わらない。

 ヒーローたちが現れて、すべてに決着を付けてくれるその日まで、生き延びる事こそが重要だ。


 今回実行する仕掛けは、それを達成するためにも絶対に必要なイベントである。



「しかし、さすがはボクの黒木だ。これなら表向きは学校行事という形で実行できる」

「あら、黒木の叡智をご存じありませんでしたの? それでも唯一無二の大親友かしら?」

「なにをー!?」

「おーっほっほっほ、なんですの!?」


 距離感バグって密着してる二人は置いといて、俺は細川さんに話を振る。


「天常さんが話題に出すってことは、もう今日にも発表が?」

「はい。朝礼で揚津見あがつみ先生から発表されるかと」

「よし」


 状況はすでに動いている。

 だったら俺は、その流れに従い全力を尽くすだけだ。


「ちょっと、本気、出す」

「!?」


 隣で細川さんがビクッとしたけど、大丈夫!

 俺はキミのご主人様にも、みんなにも、損はさせないぜっ☆


   ・


   ・


   ・


 そして、朝礼の時間。


「天常輝等羅、佐々千代麿、両名から提案があった!」


 朝礼台に立つ揚津見先生が、力強く宣言する。


「これより、上天久佐第2軍学校所属の生徒全員は、通常の授業を停止、1週間の自主訓練期間とする! 日曜にスポーツテストを行い合否も出すぞ、各員気合を入れて励めっ!」


 こうして。

 俺原案『学校行事を建前にみんなのステ上げ強制しよう大作戦』は、実行に移された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る