第20話 開幕! クラスメイト強化計画!


「ど、ど、どうしてこうなった~!?」

「耐えろ、乃木坂のぎさか! オレ達トリオ・ザ・ウッドの戦いは始まったばかりだ!」

「そんなこと言っても~。木口きぐちぃ~、鏑木かぶらぎぃ~」

「あっはっは! 翼ちゃん的には体動かす方が楽だから大歓迎~♪ ひゃっほー、お先~!」

「こらー、鏑木ぃ! オレたち三人、機動歩兵イェーガーの誓いはどうしたーー!?」


 戦士養成Aクラスの三羽烏が、グラウンドを走っている。

 自主訓練、という名の強制ステータス上げイベントを開催してから2日目。


 初手サボりを決めようとしたこの3人は、とある人物の監督下にあった。


「木口たけしさん! 乃木坂かけるさん! 鏑木つばささん! 気合、気合ですわー!!」


 竹刀を携え仁王立ちの、金髪縦ロール。

 天常輝等羅お嬢様が、彼らがサボらないように目を光らせていた。



「勘弁してくれよ~、お嬢~!」

「乃木坂さん! まだまだ余裕がおありのようですので、3周追加ですわ!」

「ぐぇ~~! イケメン薄命、カケルちゃんお先真っ暗だ~」


 お厳しい手腕で昭和のスポ根してらっしゃる天常さんだが。


「ねぇ~、お嬢~!」

「なんですの、鏑木さん」

「どうしてお嬢は、ブルマなの~?」


 その格好も、なぜか昭和スタイルだった。


「なんで~?」


 ぐるっと回って近くまで来た鏑木さんの質問に。


「趣味ですわ!!」


 揺らぎのない真っ直ぐな瞳で、天常さんが答えていた。



「いいか! 整備士だからと言って体力や気力、運動力を疎かにしていいわけじゃないぞ! むしろ整備士だからこそ! 長時間の仕事にも耐えられるよう、常に高い水準で気力体力を充実させておく必要があるんだ!」

「は、はい~!」

「イェ~ス!」

「目標はリンカーに表示される体力・気力・運動力のランクをSまで上げる事だ! それまではこのボク、佐々千代麿がみんなをサポートする! 佐々家の真髄、見せてやろうっ!」

「ひぇ~」

「オッケー! カモーン、チヨマロ様ー!」


 精霊殻の整備ドック。

 その一角にマットが敷かれ、整備士養成Bクラスの生徒たちのトレーニングスペースになっていた。


「ははっ、ああやって音頭とってくれる奴がいると、楽できるな」

「そっすね、おやっさん」


 生徒たちの指導を行う佐々君たちを、精霊殻の整備調整をしながら見守る大人たち。


「しっかしスポーツテストとは、このご時世だってのに粋な事を考えますね」

「俺らが若ぇ頃は、普通にやってたもんなぁ」


 ひぃひぃ言いながら筋トレを続ける生徒たちを見下ろして。

 彼らは束の間、温かな心を取り戻していた。



 今回の突発イベント、突然始まった訓練強化週間。

 やはりというか御三家の威光は絶大で、それなりにみんな協力的に事が進んでいる。


 佐々君と天常さんが表立って動いてくれる限り、相応の結果は叩き出されるだろう。


「……ゆえに。俺という存在はフリーに動く事ができる」


 すでに目標ステータスである能力値500は大幅に越えている俺。

 今回の発起人である俺が、フリーな自分に課した目標は3つ。


 目標その1。AB両クラスの生徒全員の体力・気力・運動力をSまで上げる。

 目標その2。トレーニングという建前を武器に、全員と、最低限会話して顔見知りになる。


 そして。



「目標その3。一緒に訓練を通じて、佐々君の代わりになるパイロット候補を探す」


 どれもが俺とラブ&ピースの使者黒川めばえちゃんとの未来において、欠かせない要素だ。


(現状、緊急時の予備パイロットという形で、まだ佐々君が1号機のパイロットになっている。早いところ誰かに引き継いで、整備一本になってもらわないとな)


 パイロット候補はAクラスの生徒だけに限らない。

 より適性の高い生徒がいれば、Bクラスからの引き抜きだって十分選択肢に含まれる。


 超常能力“他者ステータスの閲覧”を駆使して、早いところ適材適所で整えたい。



「……よし」


 実のところ。昨日の時点で、すでに俺は目標その2をほぼほぼ実行、達成している。

 それは、今日からのより完璧な目標達成において、必要な行動だった。


「さぁ、始めようか」


 ここに来て、かねてより用意していた新兵器を、俺は導入する。


「霊子ネットリンカー拡張機能……サイコセル」


 カチャリ。


 左手首に装着済みのコアに、新たに取り付けた外付け型のリング。

 これこそが――。


 必要知力600以上&必要感応力500以上!

 必要技能同調&開発、共にレベル2以上!


 その上で、情報技能1以上でないと実行できない特殊行動“プログラム作成”を実行!

 そうしてようやく手に入る、ゲームシステムを破壊する超レアアイテム!!


 ――“サイコセル”!



(これを取り付けることで、新たな超常能力が解禁される……!)


 それは、一度手を出せばもう戻れない、禁断の力。


(この状態から一定値の気力を消費することで、俺は……!)


 それは、境界を超え、世界を走破する力。


「――起動」


 宣言と同時に、俺の中からゴッソリと気力が奪われる感覚があった。


 そして。


 ----------


 超常能力“テレパスセンス”を実行します。

 超常能力“ゲートドライブ”を実行します。


 ----------


 直後。


 始まったのは、およそ人智を跳ね越えた、超常の奇跡だった。


   ・


   ・


   ・


 プレハブ脇、男子トイレ。


「ふぅ~、お嬢のノリに付き合ってたら、カケルちゃん命がいくつあっても足りないよ~」

「こっちもだ。御曹司の言わんとしている所も必要性も理解するが、ここまで急がずともいいと私もおも――」


 ぬぅっ!


「――訓練、しよぉぜ?」


 にっこぉ……!


「「ぎゃああああーーーー!? 生首ぃぃーー!?」」


「乃木坂くぅん、西野くぅん……」

「ひぃっ」

「な、なんで俺たちの名前を!?」

「サボッてるなら、一緒にぃ、訓練しよぉぉぜぇ~~!?」

「「す、す、すぐにやりまぁぁぁぁす!!」」



 体育館裏。


「はぁ、はぁ、はぁ。さっきのはなんだ? 突然空間を切り裂いて出てきて……」

「わ、わからん。情報屋カケルちゃんでも未掌握だぞ、あんなの!」


 ぬぅっ!


「こっちじゃないよぉ~~?」

「「ぎゃああああーーーー!?!?」」


「乃木坂君はぁ、グラウンドでぇ、西野君はぁ、精霊殻のドックだろぉ~~?」

「「おわああああーーーー!?!?」」

「それが嫌なら一緒にぃぃ~~……」

「わ、わ、わわかった! 訓練する! 訓練するから!!」

「お願いだ、殺さないでくれ!! なんまんだぶなんまんだぶ!!」


「………」


 すぅ~……。


「き、消えた?」

「な、なんだったんだ、本当に……」


 ぬるんっ。


「気が向いた時にでも、一緒に訓練、しよぉなぁ?」


 ニタァッ。


「「~~~~~~~~っっ!!」」


 その日から、誰一人として訓練をサボる生徒はいなくなった。

 同時に、天2七不思議“囁き男”の噂が、まことしやかに語られるようになったという。


   ・


   ・


   ・


「……そんなのがいるわけないじゃない。サボるつもりなら帰って」

「ほんとに、本当にいたんだって! サボってたら囁き男がぁ~~!!」

「だったら本物をここに連れてきて。はい、帰った帰った」

「本当にいたんだよぉ~~!!」


 憔悴する生徒を追い払い、彼女は一人、ため息を吐く。


「……本当、くだらない」


 保健室の隣にある小部屋――特別カウンセリングルーム。


 そこに配置されているのは。

 人の形を持った、人として扱われない者。


「今さらどれだけ訓練したところで、私にはもう、時間なんて残されていないもの……」


 小さく愛らしいその“人形”は。

 けれどこの場の誰よりも、冷めた瞳で明日を見ていた。

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