第3章 絢爛令嬢、天常綺等羅!
第13話 久遠の闇と青春の始まり
夢を見ている。
俺は一人、真っ暗な闇の中を漂っている。
その闇はただの闇じゃない。
ねっとり、じっとりとした嫌な粘っこさを持ち、俺の体を絡め取ってくる。
ただただ人の不快感を煽るような、今すぐにでも逃げたくなるような闇だ。
彼女はそれを、いつまでも終わらない絶望の夜と呼んでいた。
そんな闇の中で、俺の体は動かない。
否、正確には動かそうとしても絡みつく闇のせいで動かせない。
だというのに意識だけはハッキリしていて。
この気が狂いそうな空間に、いったいどれだけの時間いればいいのかと思わせる。
「………」
頭の中までこの闇に侵されてしまったら。
そう思うと震えが止まらなくなってくる。
本能的に、心が絶望に染まっていく。
そう、これは――。
「――推しが毎晩うなされてる悪夢と同じ奴じゃね!?!?」
え、マジで?
“少女の見る久遠の闇”イベント?
俺、ミ・アモーレ黒川めばえちゃんをずーっと苛んでるクソ夢と同じの見てる?!
だよな? だよな?
だってこれ、小説版に書いてあった奴と同じ感触だし、目ぇ開いて見える景色がアニメでちょっとだけ触れられてたビジュアルとほぼ同じだもんよ!
うおおおお! テンション上がる!!
「待って待ってやばいやばい。超嬉しいんだけど!?」
うわぁ、実際に体験してもマジで気持ち悪い!
なんだこれなんだこれ、心の奥底から嫌悪感沸いてくるわキッショ!
こんなん10代の少女に体験さすなよなぁ!? 最悪じゃん!!
「ってか、これアレだよな。俺があんまりにもめばえちゃん好きすぎたからって、追体験してる奴だよな……」
めばえちゃんが見る夢は、とある悪意によって見せられている人為的な物だ。
それも含めて、彼女がラスボスになるよう誘導されているってな寸法で。
マジで許せんよなぁ。こんなクソ夢毎晩見せるとか。
よーし、だったら……!
「こんな夢、ぶっ壊すに限るぜ!!」
伊達に救済SS書いてるくらいの考察勢じゃねぇぞ!
間違いなく我が推しの心を砕いた原因の一つだろうクソイベの対策くらい、考えてある!
まずは大きく息を吸って……うぇっ、クッサッ! だが負けん!
「すぅー……んっ!」
今こそ!
この想いを解き放つ時!!
「っ! うわああああーーーー!! 好きだぁぁぁぁーーーーーー!! めぇばぁえぇーーーーーー!! 大っ好きだぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!」
沸き上がれ、この魂!
燃え上がれ、この情熱!
心の闇を払う力とは、すなわち、心に火をともす力だ!
「めばえぇぇーーーーっっ!! 愛してるぅぅぅぅーーーー!! 俺のっ! 全・身・全・霊を込めてぇぇーーーー!! キミをぉぉぉーーーー!! この世界の誰よりも!! 幸せにしたいぃぃぃーーーーーー!!!」
カッッ!!
瞬間。
俺の体の内側から、強烈な光が解き放たれた。
それは、闇を払い夜を終わらせる希望の光だった。
「毎日頭をよしよし撫でてぇーーーー! 毎日愛しているって言葉にしてぇーーーー!! 毎日幸せが続きますようにって祈りを捧げてぇーーーー!!! 毎日キミにおはようからおやすみを伝えたいーーーーーー!!!!」
俺は自分の中にある想いをどこまでも高めて、闇の世界の果てまでだって響かせる。
響けば響くほど、俺の中から生まれる光はこの胸糞悪い闇を払っていく。
「キミが泣くのなら一緒に泣く! キミが怒るのならキミの怒りに味方する! キミが笑うのなら共に笑う! キミの安らぎに、俺はなりたい!!」
もしかしたら、同じこの闇の中に彼女がいるかもしれない。
これ聞かれるはちょっと恥ずかしい気がしなくもないが、しかして俺は知っている!
(うおおおーーーーっ! ド〇ン! ゲイ〇ー! 〇ントン! ブレイ〇ーン!! 俺に力を貸してくれ!!)
数多のロボット乗りたちが、物語の主人公たちが、その愛を叫ぶ時!
そこに、躊躇いなんてなかったと!!
轟き叫べ! 愛の名を!
「好きだぁぁぁぁーーーーーー!! めばえぇーーーーーー!! 大っ好きだぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」
パキッ、パキッ!!
バリンッ!!
「!?」
瞬間。
突如として世界を覆っていた闇が、ガラスのように砕け散り。
「うおおおおーーーーーー!!」
砕けた先から差し込んだ、真っ白い光の中へと俺は呑み込まれ――。
・
・
・
――ピピピピピピ……。
「んおっ!?」
俺は目を覚ました。
「ん、んー?」
鳴り響く目覚まし時計を止めて、大きく伸びをする。
今日もキッチリ、朝活可能な時間に起きることができた。
「……ふあー、ん」
あくびを噛み締め、さっさとストレッチを開始する。
朝一のストレッチが、今日一日のステの伸びに影響するのは研究済みだ。
それはそれとして。
「いやぁ、今日はいい夢見たなぁ!」
まさかのクソイベ追体験。
前世では見たくても見れなかったが、こっちでリアルな人生経験を積んでようやっとイメージが追いついた感じだ。
「今も、どこかで同じ夢を見てるんだよな……」
夜空に輝く白き月こと黒川めばえちゃんにとってあの夢は、ただの悪夢だ。
ゲーム開始前からずっと彼女を苛んで苦しめ続ける許されざる存在だ。
「それでも彼女は耐えて、耐えて、ラスボスと化すあの日まで耐え続けるんだ。だから……」
そうなる前に、俺が助ける。
そう思ったら、いつも以上に気合が入る。
推しは、今日も変わらずに尊い。
「……よし! 今日もやぁーってやるぜ!」
パワー全開!
ストレッチを終え、俺は今日もフルスロットル!
朝食前のトレーニングへと出発する――。
「やあ!」
――午前5時。
「おはよう! 今日もこのボクが来たぞ、黒木修弥!」
玄関開けたら美少年。
ジャージ姿の佐々君が、そこにいた。
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