第11話 説得フェイズはエビデンスと共に
『……お前も、父様と同じ事を言うのか』
登校初日。
決闘を挑んできた佐々君の、何らかの地雷を俺が踏み抜いたことは間違いなかった。
(公式設定には特に載ってなかったが、発言の内容的に多分……家族関係でなんかあるんだろうな。御三家だし。ゲームに出てきた
だが俺としてはそういった家のしがらみとかは一切関係なく。
ただただ純粋に、その整備技能レベル4を活かして欲しい次第なわけで。
っと、いうことで。
いろいろと準備、してきました!
「はい! 佐々君! ここでクイズです!!」
「え?」
「第一問! この人工筋肉の断裂は、どうして発生したのでしょうか!」
「は? っていうかそのボード、どこから出した?」
突然始まるクイズ大会。
出題者俺、回答者佐々君。
取り出したボードには、破損した部位をどアップにした精霊殻の写真を掲載しています。
「さ、答えて! 決闘は俺が勝ったんだから男らしく従ってくれ!」
「ぐっ。断りづらい言い方を。わかったよ……これは、えーと……」
負けた弱みに付け込まれ、渋々ながらも佐々君がノってくれる。
これでもう8割、俺の勝ちだ。
っと、さっそく答えが分かったのか、佐々君が回答を――。
「――これは、戦傷じゃないな。ここのコードがたわんでるってことは、おそらくは短期間に長距離を移動しすぎたことによる劣化と、移動中に車サイズの何かを下手に蹴ったことで起こった断裂じゃないか?」
「………」
「どうだ?」
「……マジか」
え、ヤバ。
この問題。出題者の俺が用意していた答えは“蹴りによる損傷”ってだけ。
損傷の原因の原因まで見抜いてるっぽいの、ヤバすぎじゃない?
「……じゃあ、これは?」
「これは見ればわかるだろう。明らかに手首の部分に負荷がかかり過ぎたことによる損傷だ。だが、これは銃やらを持ち続けることで起こるモノではなさそうだな……ゴーレム級と取っ組み合いでもしたか、登攀時に壁を必要以上の出力で握りすぎた可能性もあるな」
「お、おお……!」
マジかマジか!?
続く問題への回答も、俺の予想をはるかに超える120点の超回答!
他にもいろいろ問題を用意してたが、もうこれ十分だろ!?
「――ってわけなんですが、どう思いますか! 整備士クラスのオリーさん!」
「ワンダフル! ファンタスティック! とってもとっても、すっごーーーーい!!」
「うわぁっ!」
突然響いた女の子の声に佐々君が驚き、のけぞる。
現れたのは、金髪碧眼のハピハピハッピーギャル!
「オリヴィア・テイラーソン!?」
「いえーい!」
「イェーイ!」
「待て待てなんだなんだ、どういうことだ!?」
ハイタッチを決める俺たちをよそに、佐々君は顔真っ赤だ。
「説明しろ、黒木!」
「はい。端的に言うと、彼女には俺たちのやり取りを隠れて見守っててもらいました!」
「なぁ!?」
「そもそもプレハブの屋上じゃん。誰かに聞かれるってのは想定しないとな」
「くっ! もっともらしいことを!」
一緒にお昼イベントとか告白イベントとかで普通に使われる場所だからね、ココ。
見晴らしもいいし内緒話には向かないのだ。
ってことで。
伏兵にご納得いただいたところで、次はその動機の説明に移る。
「そんで、彼女にそうしてもらったのは、佐々君を納得させるだけの理由を示すためだ」
「納得させるだけの、理由だと?」
「そう、あの日俺が、佐々君は整備士した方が絶対いいって言った、その理由のな?」
「な、それはボクが御三家で――」
畳みかけるなら、ここ!
「――家柄なんて関係ない。ただ、俺は佐々君が整備士として優れてるって思ったから、そう言ったんだ」
「!?」
「なんなら俺の機体の専属整備士やってくださいって、土下座してお願いしたいくらいでな!」
「なんっ!?」
今度こそ、佐々君の目が驚きに全開きした。
「それをさ、どうしたら信じてもらえるかなぁって。そんなわけで、現役でその道を行くオリー氏に協力してもらいました」
俺としては、クイズを順当にクリアしてもらえたらいいくらいだった。
だけど結果は、そんなちゃちな予想を余裕で超える120点満点。
そうなりゃもちろん、審査員の彼女の目が、それを見逃すはずもなく。
「面白いものが見れるよってシュウヤに言われたけど、本当にいろいろ面白いものがいっぱいだったね! 中でもチヨマロ様、本当に整備士なった方がいいよ! 私たちの誰より、おやっさんよりすごい整備士に絶対なれるよ!」
「と、その道のプロ候補生が言っております」
「ぁ……え……」
お目目キラキラ、興奮状態。
そんなオリヴィアの姿を見れば、嘘なんてないと伝わるだろう。
(……だが俺は、ここで手を抜かない!)
ダメ押しの一手を、喰らえ!
「佐々君」
「黒木……」
「整備士がいなければ、戦士は戦場に立てない。整備士もまた、前線で戦う立派な役目だ」
両肩を掴み、真っ直ぐに見つめて。
「く、黒木なにを……!?」
告げる。
「俺の背中を預けるなら、キミがいいんだ」
「!!?」
「キミが整備した機体で、俺が敵を討つ。……約束する。キミと俺、唯一無二の絆にかけて!」
――決まった。
肥後もっこすであるならば。
これは、殺し文句だろう!
(漢と漢の、魂の約束。これで燃えなきゃ益荒男じゃあないぜ!)
「~~~~っっ!!」
佐々君の顔が、今までにないほど赤く燃え上がっている。
(……さぁ、どうだ?)
人事は尽くした。
打てる手は打った。
これでダメなら
「「………」」
幾ばくかの、沈黙の時間が過ぎて。
「……わ、わかった」
返ってきたのは、了解の言葉。
「それじゃあ!」
「整備士、やってやる。ボクの才覚が、そこで最も役に立つというのなら、な」
「~~~~っ!! っしゃあ!!」
整備技能レベル4のチート整備士ゲット!
俺の、勝ちだ!!
「……唯一無二」
「ん?」
「っ! なんでもない! それより、吐いた言葉は守ってもらうからな!?」
「あ、はい」
「ふんっ!」
真っ赤な顔の佐々君は、最後もぷりぷり怒った顔で屋上から去っていく。
「あと! 今後はボクのことを呼び捨てにしろ! いいな!?」
そんな言葉を言い残して。
「HEY、シュウヤ!」
「オリー」
「いいもの、見せてもらったよ!」
バチンッ!
「あいてっ!」
駆け出したオリヴィアに思いっきり背中叩かれた。
しかも笑いながら去ってったし。
妙に嬉しそうにしてたし。なんで?
「……いいもの、いいものか。確かにそうだな」
んー、まぁ。
漢の友情ってのは、いつの時代も燃えるもんな。
その上、優秀な整備士が部隊に配置されるんだ。オリヴィアにはこれ以上ない成果だろう。
佐々君……おっと、佐々が抜ける分、こっちは別でパイロット探さないといけなくなったが。
そこはそれ。なんとかなるなる!
なんならパイロット技能を誰かに伝授すればよし!
資格ゲットで勲章も貰えてお得!
「ん、んー! 綺麗な夕焼けだ」
一仕事終えた俺は、日暮れの空を見つめながら大きく息を吸う。
3月の天久佐は、もう春だ。
「ふぅー……ん、ん。よし!」
溜め込んだ空気をゆっくりと吐けば、澄んだ心で誓いを立てる。
「決めた。これからは可能な限り、部隊の質も上げていく。そうやって少しでも生存する可能性を高めて、ゲーム開始日まで是が非でも生き残る!」
推しに出会えるその日まで、推しの未来を変えるまで。
俺にできることは、なんだってやっていこうと気持ちを新たにした。
茜の空に、マイスイートディライトめばえちゃんの笑顔が見えた気がした。
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