第10話 手紙って受け取っただけでなんかソワソワするよね


 精霊殻2番機パイロット候補生。

 黒木くろき修弥しゅうや戦士。15歳。


 鮮烈☆軍学校デビュー!!!


「入学初日に技能資格持ちをギッタンギッタンに……」

「あいつが乗った精霊殻は倍以上の速度で動く……」

「見ただけで相手の様々な情報を抜き取る……」

「素手でゴーレム級を何体もぶちのめしたことが……」

「実は政府が秘密裏に造り上げたデザインチャイルドで……」


 軍学校の生徒に限らず、それらを運営する大人たちすら、あることないこと噂する。

 最後の以外はやろうと思えば全部できるけど。


 ゲーム版でも短期間で人外スペック発揮しすぎて仲間から怖がられるシチュあったなぁ。

 みんなビビる中、我が久遠の推しこと黒川めばえちゃんはむしろ好印象持ってくれるのよな。


『その強さが、もしも本当に夜闇を晴らしてくれるのなら……それはきっと、素敵なことだと思う、わ』


 うおおおおあああああーーーーーーーー!! ぎゃわいいいーーーーーーっっ!!!!

 好きぃぃぃぃーーーーーーーー!!


 ……ごほんっ!


 ゆえに、強さを求めることに関して俺に迷いはない!

 俺の青春はゴリ押しステータスと共に!


 まぁ? 向こうから? 交流してきたいっていうのならー?

 俺としてもー? やぶさかではないがねー?(チラッ、チラッ)



「……んでも、あれくらいの動きは鍛えれば誰でもできる範囲なんだけどなぁ?」

「それってホント~?」

「うおっ!?」


 スポーツ公園に併設されてる体育館裏。

 意識の違いを愚痴りながらお昼のぼっち飯を食べようとしたところで、背後から声をかけられる。


 振り向くと、見覚えのある女の子がにっこり笑って立っていた。



「HEY! ミスターターミネーター。一人ぼっちはさびしそうねっ」


 色素の薄い金髪に碧眼の美少女。

 佐々君とのシミュレーター対決の時に、俺を応援してくれていた子だ。


 隣の整備士養成クラスの、名前は確か……オリヴィア・テイラーソン。

 誰にでも優しく人当たりのいい、英国生まれの明るいハピハピハッピーギャルだ。


 そんな彼女はごそごそと、制服のポケットから何かを取り出し俺に差し出してきた。



「ハイこれ。チヨマロ様からだよ!」

「佐々君から?」


 受け取ったそれは、今時古風な手書きのメッセージだった。

 霊子ネットワーク経由でいくらでも通信できるこの時代に手紙とは、中々のみやび。


「っていうか佐々君、様呼び?」

「YES! チヨマロ様って呼ぶとニッコリして話しやすくなるの」

「マジ? 必勝法じゃん」


 今度俺もそう呼ぼう。

 っていうか、今軽く目を通した限りでも、すぐに会うことになりそうだし。


「なんて書いてあったの?」

「放課後にプレハブ校舎の屋上に来いって呼び出し」

「ワオ! また決闘するの?」


 多分決闘はしない。

 書かれていた内容的には……。


「佐々君は、確かに肥後もっこすだってことだな」

「?」


 さてさて。

 そういうことなら俺ももうちょっと、ちゃんと準備をしてから行こうかな。



      ※      ※      ※



「お呼びですか、千代麿様」

「うむ、苦しゅうない……じゃない! お前はそう呼んだらダメだ!! 黒木!」

「えー」


 と、いうことで放課後。

 手紙の内容に従って、俺はプレハブ校舎の屋上で佐々君と相対した。



「……ふんっ」


 プリプリしながら顔を赤くしている佐々君。


 気分を害してしまわれたかな?

 と、彼に近づきたい人なら気を揉みそうな状況だが、心配ご無用。


 こっちとしては話す内容はわかっているから、ニッコニコである。

 なぜならば……。



(霊子ネットワークを使った超常能力“今何考えてるの?”機能を使えば一目瞭然だから!)


 必要感応力A(400)以上!

 必要技能同調&話術、共にレベル2以上!

 必要アイテム『黒水晶改』!


 以上を前提に気力を消費して、発動!


 ----------


 佐々千代麿の考えてる事:黒木に謝りたい。


 ----------


(……うん!)


 これ見ちゃったら、待つよね! いくらでも!!


 閑話休題。



「……まぁ、その、なんだ。黒木」

「はい」

「………」


 佐々君、ちょっとしゃべるとすぐに黙ってしまう。

 そしてまたチラチラとこっちを見ては、色々な感情を溢れさせた顔をする。


 それを何度も繰り返す。


「うー……」


 きっと、佐々君は踏ん切りがつかないんだろう。

 道理が見えていても、別のところでプライドが邪魔をしているのだ。


 頑固でプライドが高く、それでいて繊細。

 肥後もっこすってのは実に面倒くさい奴なのだ。


 でも、素直に言いたいことが言えないところ、ちょっと推しめばえちゃんに似てるねっ!

 そう思えば待つのもなかなか、やぶさかではない。


 あー、めばえちゃんかわかわ。



(――とはいえ。そろそろ話も進めたいし、助け舟を出そう)


 このまま眺めていたい欲望に打ち勝った俺は、まごつく佐々君に先んじて話し始める。


「先日の、シミュレーターの件」

「!?」

「佐々君はあれを、決闘だとハッキリと口にした。そしてあの結果だった。話したいのはこのことだろ?」

「……そ、そうだっ。ボクともあろう者が、あんな醜態を晒してしまったんだ。この、佐々家嫡男、佐々千代麿ともあろう男が、だ」


 一度ちゃんと口にしだしたら、佐々君はするすると話し始めた。



「そうだ。あれは醜態だった。だというのに周りは、周りはボクのことを褒め称え、さすがは御三家の佐々家の嫡男だと認めている……! あれはどう考えてもボクという無謀な男が、キミという導き手のリードで踊らされただけだというのに!」

「いいことでは?」

「何がいいものか! 真の実力者はキミで、ボクはただの未熟者なんだぞ!?」


 佐々君、その年で力量差を正確に把握してるの地味にすごい。

 これならパイロットとしても鍛えたら、十分に育つんだろうなぁ。



「っ! そうか、やっぱりキミは……そうなのだな?」


 なんか考え事してるうちに、佐々君が何かに気づいた様子で俺を見ていた。


「国が公にしない、不知火の壁崩壊事変における人類の希望、芽生えの使者、緑の風。あの噂は本当、すべてが事実だったんだな。なるほど、それならば納得だ。納得……だとも」


 彼の顔は諦めと自嘲に染まっていて、見るからに絶望に満ちて。


「そんなキミからしてみたら、確かにボクのようなものはお飾りとして後方に下がり、整備でもしていろというわけだ……」

「え、全然違うが? ついでに言うと佐々家とかも関係ないが?」

「だがボクはそれでも……え?」


 待った! それは違うよ!!

 予想通り勘違いしていらっしゃったので、修正タイムだ!

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