第09話 技術をエンタメに昇華するのはマジ難しい
「おかしいなぁ、
「ハハッ。レクリエーションとしては上等じゃないか、佐藤教師。何しろすでにパイロット資格を有する者と……あの“緑の風”との対決だぞ?」
「……先生、楽しんでます?」
「無論だ。そしてすべてが終わったら軍規違反の罰を双方に与える。これで万事解決だ」
「雑ぅ」
あれよあれよという間に。
俺 VS
という、精霊殻パイロット候補生同士によるシミュレーション対決の舞台が整えられてしまった。
どうしてこうなった?
「絶対にボクを認めさせてやるぞ。黒木修弥ぁ!」
「………」
はい、俺がやらかしました。
原因は俺です。
「いや、佐々君。人間には適材適所って奴があってですね」
「ボクは九洲男児! 肥後もっこす! 戦いとあらば最前線が当然だろうが!!」
「あ、はい」
ふふふ。
話を聞いてくれませぇん。
っていうか、やたら肥後もっこすにこだわるね。
確か頑固者とか、実直な人だったっけ?
益荒男とか漢気とかの文脈を感じる。
正直嫌いじゃないけど、今そこで意地張られるとたいそう困る。
「それでは両者、シミュレーターに着座!」
説得も叶わずタイムオーバー。
八重香先生の指示に従って卵型の筐体の中にイン。
ってかこれ、かんっぜんに前世の世界で遊びまくってたアーケード筐体そのまんまね。
唯一違うのは今の俺の衣装。
ピッチリしてて、ちょっといかつさもある感じの……そう! ロボものじゃおなじみのアレ!
(パイロットスーツだよ! パイロットスーツッ!!)
契約の鎧と書いて。
その名も、
実際着てみると、吸いつくようなフィット感とか小説で語られてたまんまでテンション上がるぜ!
うっ、ちょっとやる気出るっ!!
「武装は両機体とも突撃銃と大太刀だ。フィールドは市街地の4番。高い建物は少なく視認性が高い。真正面からゴリゴリ殺り合え」
説明を受けながら、テキパキとバトルフィールドが設定されていく。
聞いてるあいだもあちこちから好奇の目を向けられて、やり辛いことこの上ない。
まぁ、周りからしてみればHRを潰されて、予定を狂わされてるんだからそれくらいはご愛敬か。
「HEY! ゴーファイッウィン!」
お。
なんかめっちゃ可愛い金髪碧眼の外国人っぽい女の子に応援された。
手ぇ振り返しとこ。
「随分と余裕そうだな? すぐにその化けの皮を剥いでやるぞ!」
もはや敵意100%でこちらを威嚇してくる佐々君。
完全に第一印象をどマイナスさせてしまった模様。
「………」
「どうした、何か言い返してみろ!」
「怒ってても顔が良い」
「ふざけてるのかお前は!?」
いやぁ、特に佐々君に言う事はないっていうか。
むしろバトル展開自体は望むところだからどんと来いっていうか。
あ、そうだ。
……顔が良いといえば、だ。
(最の高百面相めばえちゃんを怒らせた時の表情が、また可愛いんだよなぁ)
不機嫌状態のめばえちゃんがする恨めしげな上目遣い。
目の下の隈と相まって、マジで殺意こもってそうなオーラがあるんだよな。
これが一見すると触れちゃイヤ、構わないで、近寄らないでって風にも見えるんだけど――。
「――でも実はこれ、本当の自分に気づいて、見て欲しいだけなんだよなぁ」
「!? な、なにを!?」
「んー?」
「なっ、なんだその顔は!? そんな顔でボクを見るな! 気味が悪い!」
「おっと」
いかんいかん。
妄想が表情に出すぎてた。
気を引き締めよう。
最推しとの数多の思い出は、この胸の奥に大事に大事にしまっとかないとだ。
「準備はできてるな? ならば、シミュレーター……起動!」
八重香先生の号令に合わせて、スタートを押す。
ゲームそっくりの、そしてひと月前に経験した実戦さながらの映像が展開する。
設定された座標は、俺と佐々君が視認距離で真っ直ぐ向き合う形。
「さぁ、勝負だ! 黒木修弥ぁ!」
視界の先で相手の精霊殻が動き出す。
この手のフィールドでは定石の、初手バックステップからの、銃弾のばら撒き――!
「え?」
――は、読んでいたから初手“踏みしめ”+“前方跳躍”で行う“大跳躍”からの。
「ま……っ!」
「ふんぬらばっ!」
ザンッ!!
大太刀コマンド“振り上げ”からの“振り下ろし”。
侍系の格ゲーじゃおなじみの、バッサリ決める“大斬り”だ。
「な、ぁっ」
----------
佐々機。大破!
戦闘続行不能!!
----------
「ありゃ。大破で終わりなのか」
目の前に表示される勝利の2文字に拍子抜けする。
「………」
隣を見たら、佐々君が目を点にしてこっちを見ていた。
っていうか、なんか全部静かだ。
「……え、これで終わり?」
「これが精霊殻の戦闘?」
「ってか、技能資格持ちがなしに負けたの?」
「マグレ? ガチ?」
ざわざわ。
困惑してますって感じで、周りがどよめきだした。
「あ」
最短決着って……見世物としてはアレか?
一応これ、佐々君に決闘とは言われたが、公的にはレクリエーションだもんな。
「………」
ほら、先生たちもなーんも言ってくれないし。
こりゃあれだ。もうちょっと盛り上げろってわけね。
「佐々君」
「ヒッ。なっ、なんだ?」
「あー、今のはたまたまだったしさ、あれで決着ってのはないと思うんだ」
「え……」
「ってことで、もう一勝負して、今度こそしっかり実力を見せ合おう」
そう言って力強く頷いてみせる。
しばらく俺をポカンと見てた佐々君だったが、気を取り戻した彼の瞳に、再び闘志が燃え始めた。
「そ、そうだとも! 今のは動作チェックを兼ねた小手調べだ! 次こそが真の勝負!」
佐々君のその言葉に、どよめいていたギャラリーも沸き始める。
「やっぱりさっきのは勝負じゃなかったみたいだね」
「ならここからが本番か」
「さっきみたいなんじゃなくて、楽しませてくれよな!」
「おーっほっほっほ。もうお間抜けな醜態は晒せませんわよぉー!」
「どっちもがんばれー!」
なかなかに愉快な声援もいっぱいだ。
「さぁ! キミも体が温まっただろう。次こそボクの真骨頂を見せてやるとも!」
「もちろん。精霊殻の戦いって奴を、これでもかってくらい披露するぜ」
よしよし、場がいい感じに温まってきたな。
だったら今度こそ、盛り上がるバトルを演出しよう。
あ、どうせならもっと多彩な動きを見せた方がいいな?
「せんせー!」
「……ん、んんっ。わ、わかった!」
八重香先生が再び手を振り、シミュレーターを起動させる。
「いくぞぉぉぉぉーーーー!!」
「よし。手動緊急モードに切り替え! エマージェンシーコード入力!」
「へっ?」
レッツ、バトル!!
・
・
・
「な、な、なっ」
「ふーはははー!」
「なんだお前なんだお前なんだお前ーーーー!?」
乱射される突撃銃の弾丸。
それを、ゴロンゴロンと横にローリングしながら回避する。
「なんで精霊殻でそんな回避してるんだお前はー!?」
「えー?」
なんでって。
「“すり足”コマンドと“前かがみ”コマンドの組み合わせで“ローリング”が出て、そこからタイミングを合わせて“上体ひねり”で“起き上がり射撃”ができるからだけど?」
ドパパパパッ!
「ぐああああーー!!」
----------
佐々機。大破!
戦闘続行不能!!
----------
「うおおおーーーー!」
ガインッガインッ!
「なんで! どうして! なんで大太刀の斬撃を大太刀で合わせられるんだ!?」
「えー?」
なんでって。
「自動安全モードの動きってパターン化されてるから、それに姿勢制御系のコマンドを噛み合わせてるだけだけど? あ、入力の隙間発見! ヂィェェェェストォォォァアアア!!!」
「ぐああああーーーー!?!?」
----------
佐々機。大破!
戦闘続行不能!!
----------
「とにかく距離! 距離だ! 距離を取って撃ちまくって……!」
「やぁ」
「なんで先回りしてんだよぉぉーーーー!?」
----------
佐々機。大破!
戦闘続行不能!!
----------
「うおおおお!! 射撃でけん制しながらの、超接近戦法なら……!」
「よっ、はっ、ほっと」
「なにを……はぁ!? ビルを蹴って三角飛びぃ!?」
「跳躍コマンドで発生した運動力を敢えて壁にぶつけてキャンセル、んでそのタイミングに合わせて逆方向への跳躍コマンドを実行するとできます」
「できるわけないだろぉぉーーーー!?!?」
「できるできる。ついでに先行入力で“移動射撃”に繋がるぜ!」
ドパパパパッ!
「ぐああああーー!!」
----------
佐々機。大破!
戦闘続行不能!!
----------
・
・
・
こうして。
あの手この手で佐々君との死闘を演じ、俺はレクリエーションを盛り上げた。
佐々君も流石は資格保持者といったところで、様々な戦術を用いて果敢に攻めてくる姿は、まさしく戦士と呼ぶにふさわしい勇ましさだった。
結果こそ10戦10勝と俺の圧倒的勝利に終わったが、彼のパイロットとしての実力は十二分に発揮されたと言えるだろう。
「ふぅー。いい戦いだった」
シミュレーターから出て、額に掻いた汗をぬぐう。
なんかもう途中から、普通に楽しんでたぜ。
こういう勝負事ならいつでも大歓迎かもしれない。
「………」
周囲はシンと静まり返って。
俺たちが粋を尽くした激闘の余韻に浸っている。
自動安全モードと手動緊急モードでの動作の違いや先読みの重要性。
今回の戦いで見せた技術の多くは、間違いなくこれからのみんなの糧になること請け合いだ。
初日のデモンストレーションという意味でも、最善を尽くせたと思う。
「……黒木」
「はい! なんでしょう先生!」
八重香先生がゆっくりと歩み寄ってくる。
真っ直ぐに俺を見つめる瞳は、まさにこれから俺たちの成果を称え――。
「やり過ぎだバカ者!」
ドゴォッ!
「たてぇっ!?」
――ることはなく。
代わりに彼女の手に持つバインダーが、俺の頭に炸裂した。
「あ、が、ぎぎぎ……!」
あまりの痛みにうずくまる俺。
そして、その隣。
「そ、そんな……この、ボクが……」
もうひとつのシミュレーターの中では、佐々君が真っ白に燃え尽きていて。
「大丈夫か! 佐々!!」
「なんて惨い! 佐々くーーん!!」
彼の元には何人もの生徒たちが、心配そうに駆け寄っていた。
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