第08話 効率重視はやり込みゲーマーあるあるだと思う


 軍学校入学初日。


「お前、このボクを無視するとはいい度胸だな!」 


 温室育ちっぽい美少年に絡まれました。



「えっと?」

「フンッ。このボクが誰か知らないのだな? ならば無知なキミに教えてやろう!」

(聞いてないのに話しだした)


 美少年は芝居がかかったポーズをとり、歌うように口を開く。


「このボクこそが! 隈本御三家、佐々さっさ家嫡男……」


 ん?


「……佐々さっさ千代麿ちよまろ! この軍学校で精霊殻1番機のパイロットとなる九洲男児――隈本が生んだ肥後もっこすだ!」

「なん……だと……!」


 佐々。

 佐々と言ったかそこの君!


「佐々家と言えば隈本御三家のひとつ、学問を奨励し数多の文明人を九洲から輩出し続ける名家! “教育の佐々”の異名の通り多数の学校を支援し、対ハーベスト戦時中の日ノ本においても軍学校の運営を支え、人々の未来を繋ぐ柱となり続けているあの!?」

「えぇ!? 詳しいなキミ!?」

「うおおおーー!! すっげぇぇぇぇーーーー!!」

「わ、わっ、ちょっ! 勝手に手を握ってぶんぶんするなぁ!?」


 佐々家の次期当主とか、こんなところで会えるのは感動じゃんよぉ!?

 佐々家って、ゲームじゃ時たま名前が出てきたくらいで、後は設定資料集とかでしかお目にかかれなかったんだよなぁ!



「こんなところでお目にかかれるなんて! 奇跡みたいだ!」

「な、ちょ、ほんと、なんだお前!?」


 ヒョーゥ!

 御曹司が照れていらっしゃるぜ!


 っていうか、佐々家の次期当主ってこんなちょっと小柄な美少年だったのか。


 甘いマスクのショタ寄り顔で、きめ細かい肌に紺碧色した濃い青系の髪。

 瞳は薄めの青系っぽい、いかにも水属性みたいなカラーリングの顔立ちだ。

 HVVハベベにそういう概念ないけど。


 これ、元の世界で顔出し資料あったら絶対人気出ただろうなぁ。



「いいかげん……この! は・な・せっ!!」

「ぇんっ!!」


 掴んでた手を無理矢理はがされた。

 なんかちょっと警戒されたのか、距離まで取られてしまう。


「お前、お前! ちょっとボクに対して馴れ馴れしいぞ!」

「ハッ! 申し訳ございません!」

「うわぁ、急に畏まるな!」


 いかーん、ちょっとテンション上がりすぎてどう対応していいのかわからん!

 これが噂の限界オタク状態って奴か!


 あぁ! さっきより警戒されてる!

 半目でにらまれてる!! 小動物の必死の抵抗っぽくて可愛いね。



 そうしてにらまれること、10秒くらい?


「……はぁ」


 佐々家の御曹司、こと佐々君が、呆れながらも話を進めてくれた。



「まったく。これがボクと同じパイロットで、あの“緑の風”だっていうのか?」


 ……うん?


「なんだ。ボクが知らないとでも思ったのか? お前が噂の“緑の風”なんだろう?」

「あー、えーっと……」


 答えにくい問いだわ。

 合ってるんだが、俺はそれにYESとは答えられない。軍の規律的な意味で。


 でもこれで、絡まれた理由は理解した。

 御曹司のご興味を、俺は惹いてしまっていたのだ。



「ふんっ。実際にこの目で確かめてやろうと思ったが、こんな……この、なんだ?」

「?」

「こんな……物分かりがいいのか道理を知らんのかよくわからん奴だとは思ってなかったぞ」

「………」


 違うと言えない醜態を晒してた自覚はあるからノーコメントで。


「だが、おかげで確信したぞ。キミが上げたという大戦果だが、やはり眉唾物だな?」


 佐々君が俺に疑わしげな目線を向けて、くるくると周囲を回り始める。


「おおかた戦意高揚におとぎ話を盛ったか、事実乗っていたとして、暴走でもしていたんじゃないか?」


 もはや尋問でもされているかのような空気。

 切れ長の目に鋭く見つめられるのは、結構な圧があった。 



「………」


 とはいえ、怖いかというとそうでもない。

 俺は答えようのない問いに答えることはせず、ただ、周りを回る佐々君を目で追った。


 ----------


 必要能力値、確認。

 必要技能、確認。

 

 条件をクリアしました。


 ----------


 じっくり、じっくり。

 目で追いながら“よーく見た”。


 ----------


 超常能力“他者ステータスの閲覧”を行います。


 ----------


   ・


   ・


   ・


 ほうほう、ふむふむ。

 なるほど、なるほど。


 ……は?


「――まぁ、キミが本当はまったくの無能だったとしても、このボクが! すでにシミュレーションによるパイロット技能試験合格者であるこのボクが! 代わりに華々しい戦果を挙げて、この小隊の名を世に知らしめてみせるから、安心して身の丈に合った生き方をするといい」

「……なぁにぃぃぃぃーーーーっ!?!?」

「うおおおなんだなんだ!? ……はっ! ふ、ふんっ。驚いたか? まぁつまり、キミは大人しくボクの導きに従いその活躍を後方から支援していれば――」

「佐々君整備士になろう」

「――いいんだ…………なんだって?」

「精霊殻の整備士になった方がいい。マジで才能あるから」


 俺の言葉に、佐々君はめちゃくちゃびっくりしたのか立ち止まり、目を見開いていた。

 そして俺の目も、バッチリハッキリ見開かれていた。



(いやぁ、絡まれついでだからって視てみたが……)


 ちょっとびっくりして声出たわ。

 ステータス、能力値とか技能とか、そういうのをチェックしてたんだけど。


 まさかの佐々君。整備技能のレベルが4。


 何がすごいって、HVV世界じゃ習得できる技能のレベル上限は3なのだ。

 4っていうのはそうなるように調整された生物か、天然物の化け物が出す特別な数字。


 ゲーム中や小説にも何人かいた、その技能における超天才って奴である。



(こうなると事情が変わってくるな)


 佐々君。欲しい。

 マジで欲しい。なんなら専属整備士にしたい。


「……それは、本気で言っているのか?」

「マジ。本気と書いてマジと読む奴」

 

 ゲームにも整備技能4の子居たけど、大破した精霊殻が翌日には故障全部直ってたんだわ。


 チートだよチート!


 この力を借りられたら、隈本が生んだ漆黒の美姫黒川めばえちゃんに会うまでの生存率が全然違う!



「パイロットなんて辞めて、即行で整備士に転属した方がいいって」

「………」

「佐々君は絶対、後方で精霊殻いじってる方がいい!」


 ここは多少ごり押ししてでも説得すべし。

 最悪、未来の上官殿に彼の配置換えを進言するくらいは視野にいれて動きたい。

 序盤で彼みたいなのを適材適所できるかどうかは、マジで後々響く!


 とか、そんなことを考えていたら。


「……か」


 なんか、佐々君がプルプルしていた。



「……お前も、父様と同じ事を言うのか」

「え? あっ……!」


 なんか地雷踏んだ。


 って、気づいた時にはもう遅し。



「お前も! ボクに前線に立たず大人しくしていろと言うのか!?」


 激昂し、俺をこれまでの比じゃない鋭さでにらみつける佐々君。

 怒り心頭といった様子で俺に人差し指を突きつけて。


「黒木修弥! お前にシミュレーターでの決闘を申し込む!!」


 ガチギレしながら勝負を挑んできたのだった。

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