第03話 いざ目の前にするとテンションあがるわ
2019年。
2月某日。
「緊急速報です! 先ほど、
緊迫したニュースキャスターの声をテレビ越しに聞いた俺は。
ついにこの時が来たか、と。気を引き締めた。
(……日ノ本が本格的に戦場になるキッカケとなる大事件、不知火の壁の崩壊!)
15歳(中3)になった俺は、即座に食べかけだったご飯を平らげ、母さんを呼ぶ。
「母さん! ここもヤバい! すぐに山の学校に避難しよう!」
「わ、わかったわ!」
事前に避難計画を立てていた俺たちは、淀みなく準備を済ませ、即座に動く。
おかげで道路が混むより先に車で移動でき、避難所になる学校までスムーズに到着した。
俺の中学生ライフを過ごした、馴染みの母校。
自分たちと同じく素早い対応で逃げてきた人々を、先生たちが誘導していた。
「おわっ、く、黒木さん! どうぞ、車はあちらに置いてから来てください!」
「わかりました」
顔見知りの先生の指示に従って、奥の普段は使われてないスペースに車を置く。
いざという時ここで寝泊まりする可能性もあるから、カギ締めはマストだ。
「母さん、こっち!」
「はぁ~いっ」
混みそうな正門方面を回避して、裏周りして体育館へ。
まだまだ空きスペースのある屋内の一角を確保して、ようやくひと心地つく。
「シュウヤちゃん。落ち着いてるわね」
「そりゃあね」
こうなる未来は知っていた。
2019年、2月。
大陸からの侵略を防ぐ三壁の一つ『不知火の壁』が崩壊し、敵が
後に
これはその、始まりを告げるイベントだ。
(母さんを事前に内地の爺ちゃん家に逃がす手もあったけど、この年で一人暮らしは許してもらえなさそうだったからなぁ)
ネームドモブだった俺がこの状況を事前に回避できたとは思えない。
パイロットになる未来に繋げるためには、どうしたってここに俺は残らないといけなかった。
(少なくともここでは、モブだった俺は死ななかった。母さんは……今の俺ならきっと、守れるはず)
俺はともかく、母さんの生死なんてどこにも載ってない。
だからここでの俺のミッションは、俺、死なない。母さん、死なせない。
「おい、あれを見ろ!」
「おお! あれが噂の……!」
ふと、体育館の外が騒がしくなった。
母さんに断ってから俺は、興味を惹かれるままに騒ぎの中心であるグラウンドの方へと出る。
そこには――。
「……ぉ、あ!」
立っていた。
二本の足で、雄々しく。
「あ、あ、あ!!」
10mほどの巨人が、その手に銃と、刀を持って。
希望を届けに、立っていた。
「……
フィクションではない、現実にそこに在るモノとして。
「すっげぇーーーー!!」
人類を守る防人が、その威容を示していた。
「――上天久佐市民の皆さん。こちら、日ノ本第634機動小隊、ムサシ隊所属の精霊殻パイロット、
精霊殻から、落ち着いた男の声が響く。
独特の階級に、ゲーム知識で隊長クラスのそこそこ偉い人だなと理解する。
「これよりこの区画は我ら、ムサシ隊が防衛します。市民の皆さんにおきましては、この避難所にてしばらくのあいだ、ご待機のほどよろしく願いいたします」
そう隊長さんが語る間に、精霊殻がもう一機、どっかから飛んできてグラウンドへと着地する。
うおっ、こっちは両手に大太刀装備の超接近戦仕様だ! パネェ!
「ハーベストの妖精モドキ共は、我々がことごとく討ち果たします。どうかご安心ください!」
力強く言い切られて、自然と市民たちから歓声が上がる。
今この瞬間まさしく彼らは、人類の希望としてそこにあった。
「つきましては作戦司令部をこちらに設置いたします。ご協力をお願いします!」
隊長さんの言葉に促され、あれよあれよという間にグラウンドが前線基地に変わる。
気づけば体育館周りは避難してきた市民でぎゅうぎゅう詰めになり、ぼーっと精霊殻に見惚れてた俺は、母さんのところに戻れなくなった。
「やっべ。とりあえずメッセージ送っとこう」
霊子ネットワークを通じてメッセージを送信。
スタンプでOKって返ってきたからひとまずこれで問題なし。
まぁ、何かあっても今の母さんなら誰かが放っておかないだろう。
「なんだあの美人」
「ご存じ、ないのですか? 彼女こそ天久佐が生んだ絶世の人妻乙姫。黒木さんだ」
魅力、鍛えたんで。
(そうだ、今なら敵が見れるかも!)
中学校は水害対策で高い場所に建っている。
その屋上ともなれば、それなりの高さで遠くを見渡すことができるだろう。
ワンチャン今なら、豆粒くらいに大型の敵を確認できるかもしれない。
「よし、んじゃ早速……っとと!?」
「きゃっ」
いざ出撃!
ってところで、女の子とぶつかった。
「あ、ごめんなさい!」
「いや、こっちこそごめん」
ぺこぺこしてる女の子に、大丈夫ってアピールする。
すると女の子が顔を上げ、恥ずかしそうに微笑んだ。
バチクソ可愛かった。
「あの、私お母さんが待ってるので!」
「あ、うん。大丈夫。じゃあね」
同じ年頃の、青味がかった白い髪の女の子。
ふわりと甘い香りを残して、彼女はそそくさと駆け去っていった。
「………」
しばし、その後ろ姿を見送って。
「っと、急げ急げ。斥候さんが屋上立ち入り禁止にしちまう前にGOだ!」
ハッと気を取り直した俺は。
慌てて屋上目指して駆け出すのだった。
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