第02話 推し活を遂行するためなら命くらい削るよね
それが今世での、
灰色がかった黒い短髪と、クリっとした黒い瞳。
10歳時点でそれなりに整った顔立ちは、将来性抜群のイケメン予備軍。
うん、悪くない。
何よりマイフェイバリットラブハート黒川めばえちゃんとふわっと似てるのがいい。
っていうか。
前世の俺は、こいつのことを知っている。
「関連キャラ転生にしたって、ここをチョイスされるのは中々渋いなぁ」
鏡を前に独り言ちる俺の後ろを、不思議そうな顔をしてマイマザーが通り過ぎて行った。
だって、である。
(こいつ、マイナーにもほどがある奴じゃん? むしろ俺じゃなきゃ見逃しちゃうね)
黒木修弥は、いわゆるネームドモブだ。
名前は判明しているが、特に活躍するわけじゃないサブ中のサブ。
しかも、こいつの場合その出番というのがまた酷い。
(なんたってこいつ……小説版の冒頭で全滅する小隊のパイロット様だってばよ)
そう。
黒木修弥は、世界観説明のために犠牲となるモブくんなのだ。
何度も小説を読み返し、公式サイトや設定資料集を熟読する俺だからこそちゃんと覚えていられるようなキャラ。
(この世界はそれっぽい重要そうなキャラでも、ロボに乗れる子でも、あっさり死ぬ世界ですって最初に読者に教えるのが、
あの上中下巻合計3千ページを超える設定資料集をして。
“世界観説明のために犠牲となった憐れな人物。彼のようにその役目を果たせぬまま死ぬキャラクターは大勢います”
と書かれるのみの、端役も端役なモブオブモブ。
(だが、都合がいい)
鏡を前にニヤリと笑う俺。なかなか悪い顔。
(何しろ真っ当に時間が進めば、パイロットになれるルートが確定しているということ)
HVVの世界は、人類存亡をかけた戦いの世界だ。
ゲーム開始時まで後6年の猶予がある今でさえ、世界の名だたる大国はそのほとんどが壊滅している。
人々が生活する
西洋の怪物や妖精に似た姿をもった彼らはこの十余年、時に激しく、時にじわじわと世界を侵略し、人類の生存圏を奪っていった。
こいつらに対抗するには、っていうか生き残るには。
「でも、それまでのうのうと過ごすわけにはいかないよな」
いくらパイロットになれるとはいえ、モブである俺を待っているのは死の未来だ。
まごまごしてたら愛しのめばえちゃんを救うどころか、出会うことすら出来ずに命を落としかねない。
「そのための、これだ」
左手首の腕時計をつけるところ辺りに、ポチッと付いてる丸いくぼみ。
そこにマイマザーに拝み倒して買ってもらった真珠みたいな丸い石をカチャッと填める。
ヴンッ!
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Welcome,My Master!
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「おおーー! すっげーーーー!!」
宙に浮き出して表示された画面に、俺はゾクリと身震いした。
「これが霊子ネットワーク!」
インフラに壊滅的打撃を受けたHVV世界にインターネットを取り戻した超技術!
これさえあれば遠方との通話や精霊殻の操縦まで、なんでもござれな便利アイテム!!
「さっそくユーザー登録と、ステータスチェックっと……おお! できたできた!」
俺は前世のアニメで見たとおりに操作して、その画面を表示する。
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Name:クロキ・シュウヤ Age:10
【Status】
体力 :108/124〔E〕
気力 :98/106〔E〕
運動力:101〔E〕
知力 :836〔S〕
魅力 :78〔F〕
士気 :1027〔S〕
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出てきたのは、俺の現在の能力をデータ化したもの。
ゲーム画面そっくりなUIに、正直めちゃくちゃ感動する。
ってか知力と士気バカ高いな俺。
知力は前世知識として、こんなに士気が高いのは……まぁ、さもありなん。
(なんてったって、俺は今、推しの生きている世界に生きているから!!)
今もこの世界のどこかでラブリーマイエンジェルめばえちゃんが生きているって思えば……うひょひょひょへへへっ!
「ふへへ……さて。だったら、これはどうだ?」
そこからポチポチ、ポチッとなっと、俺は画面に触れて操作する。
ジジ……ヴンッ!
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感応力:128〔E〕
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「……よしっ。ちゃんとコマンドが使える!」
魅力のすぐ下に追加表示されたのは隠し情報、いわゆるマスクデータだ。
本来ならゲーム開始後、軍属になって初めて教えてもらえる手順を、俺はちゃんと扱うことができた。
つまり、それが意味するところは。
(俺の持ってるHVVの知識は、通用する!)
ゲームの、漫画の、小説の、アニメの、映画の、公式サイトの、考察スレの。
ありとあらゆる知識と経験が、役に立つ可能性が示唆された!
だったら、やることはひとつ!
「鍛えるぞ! ステータス!」
いつか戦場に立つその日のために。
俺の望む輝かしい未来を掴み取るその日のために。
最推しヒロイン黒川めばえが、笑顔で明日を迎えるその日のために!
「毎日身だしなみチェックと最低10kmランニング&筋トレで魅力体力運動力向上。寝る前に瞑想しながら気力と感応力稼いで錬金技能解禁。アイテム揃えて順次他の技能訓練もしつつ、体を休める日には知力磨いて知識技能と交渉技能の素地作り。隙見て学校のPCで情報技能取ったらプログラム生成して補正入れてから超常の……やること山積みだな!」
「シュウヤちゃん、そろそろママにも鏡使わせて~?」
「後20分待って! 魅力の変動値チェックするから!」
「ええ~」
この日から俺は、あらゆる行動の基礎となるステータスアップに、力を注ぎ始めたのだった。
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