ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~

夏目八尋

第1章 転生者、黒木終夜!

第01話 今世は推しのために命を燃やすと決めたんだ


 “踏み台型ラスボス少女”


 俺たちの界隈には、彼女のことをこう呼ぶ奴がいる。



 ヒーローとヒロインが覚醒するために、ラスボスとして、倒されるべき障害として用意された、悲劇の少女。


 ヒーローを慕い、けれど想いを告げられぬまま絶望し。

 終わらぬ夜に囚われて、恐ろしい怪物へと成り果てて。


 最後はヒーローたちの手によって、明日の希望のために打ち倒される。


 彼らの英雄譚のために配置され消費されるために存在する……踏み台の少女。



 “黒川めばえ”は、そういうキャラクターだ。



 2000年発売の大人気ゲーム。

 ロボ×ファンタジー×青春のセカイ系シミュレーション『ハーベストハーベスター』。


 四半世紀を過ぎてなお語られる名作ゲームの登場人物。


 それが。

 俺という存在が愛してやまない、歴代最強最高最愛不変の最推しマイベストヒロインだ。



 え? もじゃもじゃウェービーな黒髪ロングが野暮ったい?

 否! モフモフで小動物感溢れるあの可愛さこそ魅力的! 白い毛先まで撫でさすりたい!


 え? 隈の深い半眼から覗くほの暗い紫色の瞳が不気味?

 否! アメジストのように美しいあの瞳が全開きしようものなら俺は昇天する! 俺を見て!


 え? どもってばっかで話が進まないのがまどろっこしい?

 否! 彼女が思いを口にするまでの時間は愛らしさと奥ゆかしさを堪能するボーナスタイムだ! むしろご褒美以外の何物でもない!


 え? 適当に暗い性格で悲劇っぽい過去用意されてるのが安っぽい?

 ……バッカ野郎!! てめぇめばえちゃんの壮絶な過去知らねぇのガチでちゃんと設定資料集読み込んでねぇだろあの子がどんだけゲーム開始まで苦労してここまで来たと――


 ――げふんげふんっ!


 残念ながら、世間一般における彼女の人気はそこまででもなかった。

 今でこそ陰キャ美少女には一定の需要があると認められているが、当時は設定のえぐさも相まって、他の魅力的な登場人物たちの中に完全に埋もれてしまっていた。


 それが悔しくて某ネット小説投稿サイトにめばえちゃん救済SSを投稿したりもしたが、結果は散々で。


『この子が犠牲になるからこそ、HVVハベベは綺麗に展開するんじゃん』


 なんて感想をもらった時は、歯軋りしながら血涙を流したものである。



 確かに。

 ゲームでも、小説でも、コミックでも、アニメでも、映画(アニメリブート)でも。

 そのどれでも彼女は主人公たちに立ち塞がり、踏み台にされた。


 そのどれもが人気で評価されていて。

 誰もが彼女の価値を、踏み台型ラスボス少女として認めている。



 ……否! 否だ!!


 俺は認めない。

 俺だけは認めてなるものか!


 黒川めばえは。

 黒川めばえだって……。


 普通の女の子なんだ!


 その人生は決して、踏み台にされて消費されるためだけにあるんじゃあない!


 現にゲームのHVVでは、彼女とヒーローをくっつけることだってできる!

 ……そうするとラスボスと戦えなくなってトゥルールート消失するけど。


 だが、可能性はいくらだってあると、作中でも語られている!


 ならば俺は、彼女が踏み台にされて終わる正史を認めない!



「めばえぇぇぇぇ! 大好きなんだぁぁぁぁ!! めぇばぁえぇぇぇぇぇ!!!」


 いつだったか、サークルの飲み会終わりに、海に向かって叫んだのを思い出す。

 あの頃胸の内に滾らせていた思いは、今もこの魂に刻み込まれている。



 だから。


「――お昼のニュースです。先月より一部戦闘区域で実戦投入された『精霊殻せいれいかく』ですが……」


 10歳のある日。

 前世の記憶を取り戻した俺が、この世界がどこなのか理解したとき。


「シュウヤちゃーん。ママこれからタイソーに買い物行くけど何か欲しいのあるー?」


 望んだ未来を掴み取るチャンスがあると気づいたとき。


「シュウヤちゃーん?」

「(欲しいもの)あるーーーー!」


 俺は迷いなく、この全身全霊をもって。


「ダッシュシューズと蛇模様の指輪とハンドグリップとキラキラエプロンと勝守と救急セットと工具セット、簡易錬金鍋と白衣とメンズモーニングの今月号と戦術教本Ⅱと君と僕の話し方入門と霊子ネットリンカーと黒水晶とパワーストーン緑買ってきて!」

「うん、ごめんねシュウヤちゃん。ママちょ~っと、聞き取れなかったわー?」


 推しの未来を切り拓くために、命を燃やすと決めたんだ。

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