第7話 偽物の関係

 二学期が始まると、中間テストに向けた授業が始まるが、それ以上に生徒達を鬱にさせていたのが体育大会の練習だ。何故練習なんかしなければいけないんだ。特に、一年生と二年生は合同でマスゲーム(組体操)を行うため、残暑が厳しい中での練習を想像して嘆いている。

 教室の黒板に書かれた国語の板書を消す悠奈は、黒板消しをゆっくりと下ろしながら賑やかなクラス内の会話に耳を通す。


「悠奈、今日部活は?」


 後ろに手を組みながら右からじわじわと歩み寄る亜樹に対し、悠奈は「いつも通りだよ」と手を止め、溜め息混じりに答える。


「そういえば、久慈先輩は元気?」

「知らない、もう一週間以上来てないから」


 悠奈は何も気にしていない口調で答えると、手についた白い粉をパンパンとはたき落とし、トイレに行く。亜樹は、心配そうに離れていくその姿を窓越しに見る。久慈が吹奏楽部を退部したことについて、微かに噂が広まっていた。悠奈から宮木と久慈の関係について耳にしていた亜樹は、久慈を過度に心配するようになっていた。一目惚れしてしまったのだろう。距離を近づけたいなら、吹奏楽部に入ればいいのに。そう何度も悠奈から打診を受けた亜樹だが、顧問が担任なのは嫌、ときっぱり断り続けている。


「あれ、町田さんは?」


 宮木が小さな赤い箱を手に持ち、前扉側にぽつりと立っていた亜樹を尋ねる。


「悠奈なら、今トイレに行きましたよ」

「そう。あの子、明日誕生日だっていうから、プレゼント渡しに来たんだけど」

「もうすぐ来ると思いますけど、よかったら渡しておきますよ」


 右手を差し出す亜樹は畏まらずに無感情で相手をする。面倒だ、と思いながらも差し出された掌にプレゼントを乗せる宮木は「よろしくね」と、笑みを浮かべながら去っていく。噂から素性が伺えてしまうことに、少し恐怖を抱いてしまう。

 ニアミスした悠奈が戻ってくると、亜樹は預かったプレゼントを渡す。部活で会うから、その時でいいのに。本人の前では口にできず、自然と友達に微かに聞こえるくらいの呟きに変わる。


「え、これ高い腕時計じゃない?」


 小さな赤い箱に保管されていた高級ブランドの銀の腕時計、ではなく、その姿に偶然似ただけの安い素材で出来た腕時計だ。質の良い箱に収められているからか、家が貧乏だと自ら謳う亜樹は簡単に騙されたが。悠奈は「偽物だよ」と簡単に見抜いた。箱からは一切取り出さず、蓋を閉じて机の中に直した。


「着けないの?」

「部活の時だけ着ける。ほら、先生にバレたら没収されるでしょ?」


 頬杖をつきながら平気に嘘を吐く悠奈の姿に、亜樹は「確かに」と呆れ笑いを漏らし、チャイムと同時に廊下側の列一番後ろの自席に着く。

 プレゼントなんか貰っても、印象なんて変わらない。自分の家が学校から徒歩十五秒の超近距離に住めるほど裕福であることを自慢したいだけだ。そんな先輩とあと一年付き合わなければいけない、面倒だ。しばらく、頬杖が取れなかった。

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