第41話 ハイジャック

「本船とキッカ3との中間宙域に宇宙船が転移してきます」

 男2人の緩い話の最中に投げ込まれたメインコンピューターのミレの報告に緊張が走る。

 こんな辺境の無人惑星にジャンプしてくるなんて普通の船ではありえない。

 まさか、こんなに早く軍が対応してきたのか?

 レムニア・ドライブは使用したばかりだから再使用には時間がかかる。マズいな。

「質量は?」

 すかさずヒューゴが反応した。

「ガジーボ級だ。軍艦には採用されてない。少なくとも昔はなかった」


 固唾を飲んで見守るうちにワープアウトしてくる。

 最大望遠での映像がメインモニターに表示された。

 ぱっと見には中型旅客船が俺たちの進路に対して右手から左手に進んでいるように見える。 

「おい、ハイジャックだ。エアロックを破壊した痕跡がある」

 ヒューゴが叫んだ。

 ミレに所属を明かすように通信を送らせるが返事はない。


 俺は最大船速を命じた。

 加速を始めると旅客船はミレニアム号から逃れるように進路を取る。

 しかし、こちらは元々は軍用船だった。

 通常空間におけるスピードでは民間旅客船が敵うはずはない。

 すぐ近くまで近づき警告射撃をするが停船しなかった。


 いつの間にかマギ3人がコクピットにやってきている。

「リックさん、どうするの?」

 キラキラした目でサーシャさんが質問をしてきた。

「中の様子が分からないので、砲撃するわけにもいかないんです。全員宙賊なら容赦なく宇宙の塵にするんですが」

「となれば、接舷して乗り込むしか無いな。リック、装甲服はあるのか?」

 勇躍してヒューゴが尋ねてくる。


「あるにはあるが、使えるかどうかは……」

「補修して1着は稼働できる状態にしてあるよ。状態の悪いやつはバラしてパーツを使っちゃったけど。ただ、これから標準体型用に入れた詰め物外さなきゃいけないかな。でも、すぐできる」

 すかさずミリアムが補足した。

「全く問題ない。むしろ1着を潰しただけで装甲服を稼働可能状態にしてあるなんて最高だ。よし、それじゃ作戦開始」


 まず、旅客船に近づくとミレニアム号をぴったりとくっつける。

 強力な電磁石で2つの船を強固に固定した。

 破壊されていない旅客船右舷のエアロックとミレニアム号のコネティングデッキをつなぐ。

 エアロックを外側から開けるには通常は爆破とかの野蛮な手段に頼らざるをえないが、こちらにはミリアムがいた。

 パスコードを解読して2重になっている外側の扉を開けることに成功する。


 装甲服を着用したヒューゴがエアロックに入り内側の扉に張り付いた。

 その後ろからミリアムが手を伸ばして作業をし、もう1つの開錠も行う。

 扉をロックしている機械のランプが赤色から緑色に変化した。

 それと当時に俺が前に出て、ミリアムと場所を交代する。

 内側の扉が開くとヒューゴが乗り込んだ。


 レーザーの光が襲うが、装甲が耐えている間にヒューゴが逆に射手を撃つ。

 もちろん相手はシールドを張っていたが、ヒューゴの手にしていたのは即席のボウガンだった。

 有効射程は5メートル程度だが宇宙船内ではそれで充分である。

 腹に矢を打ち込まれた男はのたうち回った。

 すかさず俺が飛び出してレーザーガンとシールド発生装置を没収し拘束する。


 後部エアロック周辺の安全を確保したと判断するとミリアムを招き入れた。

 すばやくミリアムが内側の扉を閉めてロックする。

 これで後は旅客船の中を掃除するだけだった。

 宇宙船内の2列の通路を片方は装甲服を着たヒューゴが、もう片方を全身タイプのシールドを展開したミリアムが進んでいく。

 宙賊も自分たちが接舷されて攻撃を受けるとは想定していなかったらしく、シールドを装備しているのは2人に1人ぐらいだった。


 シールド有の宙賊にはボウガンで、そうでない奴は俺のレーザーガンで攻撃する。

 余裕がないので俺は射殺したが、ボウガンが刺さったのは人質になっていた周囲の乗客が取り押さえた。

 10人ほどの宙賊を排除する。

 中には人質のフリをする狡猾な者もいたが無駄だった。

 俺が着用しているバイザーはミリアムがアクセスした乗客データとリンクしており、データと一致しないものは赤枠が表示されるようになっている。


 すでに警戒しているので隠し持った武器を使おうとしても余裕しゃくしゃくで対応することができた。

 敵の数が減ってくるとヒーロー気取りが潜んでいる宙賊につかみかかるシーンも見られるようになる。

 赤枠付きで表示される者がいなくなると、拘束されていた乗務員を開放した。


 最後に旅客船のコクピットの扉の前に俺たち3人が集結する。

 中に立て籠もっている宙賊がインターコムを通じて脅迫してきた。

「抵抗するならパイロットを殺害し、機器をメチャクチャにするぞ。コントロールを失って永遠に飛び続けることになるんだ」

「馬鹿な真似はやめろ。そのときはこの船のエンジンを止めるだけだ。接舷している船の通信は生きているし、すぐに救援もやってくる。大人しく投降しろ」


「どうせ終身刑は間違いないんだ。さらに1人や2人殺そうが大差はない。むしろ死刑になってすっきりするぜ。それともいっそこのコクピットごと爆破してやろうか。上手くすればお前ら全員道連れだぜ。はっはっは」

 くそー。

 はったりだと思うが本当だと目も当てられないな。


 この間、シールドを解いたミリアムは持参したコンピュータでコクピットのドアロックの解除を試みている。

 ヒューゴはそのカバーに入っていた。

 ミリアムが俺に笑顔を向ける。

「船長。解析は終わったよ。いつでもドアロックは解除できる」


「どうする? リック」

 そう言いながらヒューゴは圧着式の取っ手をドアに取り付け正面に立っていた。

 ミリアムは俺とは反対側のドアの脇に片膝をついている。

 2対の目が決断を促すのを見ながら、俺は光と爆音で行動不能にするスタングレネードを握りしめていた。



 


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