第39話 秘密
「ど、どういうことだ?」
コクピットに響く警告の中身を確認しながら、ヒューゴは慌てた声を出す。
「おい、どういうことだ。この船、キッカ星系にいるぞ。いつジャンプした? それに時間が短すぎる」
「ヒューゴ。そんなことより、現在の正確な位置を出してくれ」
手元で何やら操作しながらもヒューゴはぶつくさと言っていた。
そして、突然叫ぶ。
「リック。お前、これがどういうことか分かっているな。分かっていて俺が驚くのを見て楽しんでいるんだろう?」
「元相棒にそんなことをすると思うか?」
「ああ。するね。絶対にする。さっきの俺の態度への意趣返しだな」
「ヒューゴ。まあ、落ち着けよ。実はこの船は未知のジャンプ航法が備わっている」
「そうだろうな。それは分かる。それ以外考えようがない」
「ちぇ、意外と冷静だな。もっと驚けよ」
「驚いているって。宇宙酔いも無いなんて最高じゃないか。これなら宇宙での仕事でも悪くない。で、どうやってこの凄いジャンプシステムを入手した? 軍に追われているってのもこれが原因だろ?」
「実はそうじゃない。何が原因で俺が追われるようになったのかは正直、よく分からないんだ。飯食ってるときに推論は話しただろ。まあ、今ではこのジャンプ航法も追いかけてくる理由の1つにはなってると思う」
「俺の質問の答えになってないぞ。どうやってこんな凄いものを手に入れた? 俺にも秘密か? あんな美人たちの存在も隠していたし、性格悪くなってるぞ、お前」
「一遍に頭に入ったら理解しきれないだろうと思ってね」
「そりゃお気遣いどうも。で、いい加減吐け」
「それよりも、キッカ星系のどこか分かったか?」
ヒューゴは唸り声を出すが、渋々ながらもナビゲーターの業務はこなした。
「キッカ3から通常巡航速度で1日の距離だ。キッカ3は無人惑星のようだな。大気組成が人類向きじゃない。恒星に面している側の平均気温は41度だ。凍りつくほどじゃないが寒いぜ」
「それ、華氏だよな。えーと、摂氏5度か。まあ、ヒューゴの格好じゃ風邪を引きそうだ」
「くそ。こんなことなら着替えを持ってくるんだったぜ。って、話題を逸らしっぱなしにするな。このジャンプ航法についていい加減に白状しろ」
「有人惑星は?」
「キッカ2だ。もうナビゲートはいいだろ?」
シートベルトを外したヒューゴがやってくるので仕方なく説明する。
「新型のジャンプ航法なんだが、向こうからこの船に乗ってきた」
「おいおい、何を訳のわからないことを言ってるんだ。そんなわけが……」
ヒューゴの顔に理解が広がった。
「そうか。それで航法と言ってやがったのか。リック。お前さんが本当のことを言っているとすると、このジャンプはあの3人の仕業なのか?」
「いやあ、ヒューゴのその頭の柔軟さは凄いと思うよ。普通ならその結論にたどり着いても常識が邪魔をして即座に捨てるはずだ」
「褒めてもらってるってことにしておくぜ。あの3人は何者だ? 軍が極秘研究していた最新鋭のアンドロイドか? ハイパージャンプシステムを最適化するチューニング機能つきかなにかの」
ヒューゴの言葉が終わると同時に居室の様子がサブモニターに表示される。
「ボクたちは食事にする。船長も食べるなら用意しておくけど」
スピーカーからミリアムの声が流れてきた。
少し考えて返事をする。
「軽食のキットを2食分頼むよ。今から向かう」
「了解」
サブモニターが消えるとヒューゴがにやにや笑いを浮かべていた。
「随分と仲がいいんだな。食事の連絡をしてくるなんて……。ん? 食事をするってことはアンドロイドじゃないのか。それにあの仕草や態度はあまりに人間くさい」
俺はシートベルトを外すとミレに指示を出す。
「警戒と索敵を続けておいてくれ。何かあったら居住エリアへ」
コクピットを出るとヒューゴが追いかけてきた。
「なあ、おい。いい加減に話せよ」
「そういう難しい話は食事をしながらにしようぜ」
「本人たちを前にして話題にするのか? さすがにそれは」
「ヒューゴのいつもの面の皮の厚さなら、それぐらいなんでもないだろ。初対面であんなことができるんだから」
「あれは初対面だからできるんだよ」
「意味が分かんねえ」
居室に入ると既にテーブルの上に5食分の携行食キットが置かれている。
5個もトレーが置いてあると少々手狭だった。
さらに折りたたみ椅子まで用意されている。
俺たちがいつも通りに席に着くと、ヒューゴは俺とミリアム側に置いてある折りたたみ椅子をサーシャさん側に持っていこうとした。
「熱心なのはいいが、少しは落ち着け。料理だってこっち側においてあるだろ」
文句を言いながら、サーシャさんはアンドロイドってことにしておいた方が良かったかなと考える。
まだ座ろうとしないヒューゴにとどめを刺すことにした。
「サーシャさんは既婚者だ。それぐらいにしておけ」
ヒューゴは椅子を元の位置に戻すと渋々と座る。
体がでかいだけに折りたたみ椅子がオモチャのように見えた。
俺はクラブハウスサンドイッチをつまみ上げるとひとくち齧る。
「まだ諦めてなさそうな顔をしているな。それじゃあ、さっきの質問に答えてやるよ。こちらの3人がミレニアム号をジャンプさせた。3人はレムニアのマギなのさ」
それなりに大きい一切れを丸ごと口に入れていたヒューゴは目をパチクリとさせた。
機械的に咀嚼を続けると食べ物を飲み込んで口を開く。
「そうか。あんな凄いことができるなんて大したもんだ。で、レムニアのマギってことが何か恋愛の障害になるのか? お前さんが散々世話になってるし、こんな風に一緒に飯を食ってんだろ。ごく普通、しかもどっちかというと善良な人間じゃないか」
ヒューゴは意味が分からんというように首を傾げた。
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