第31話 戦闘機とミサイル

 ラムリーを膝から下ろしたミリアムは細長い筒状のものをふらふらしながら抱えている。

「これでいいんでしょ?」

 俺は船倉に保管してあったホーネット携行式対空ミサイルの発射管を受け取った。

 ミリアムはこんなものまで取り寄せられるし、これがどういうものかも理解しているのか。

「ミレ。シールドを上げてEAVを通してくれ」

 ミレニアム号のメインコンピュータに指示しつつ、発射筒を操作する。


 誤作動防止用の透明なカバーを開けて準備ボタンを押し込んだ。

 液体窒素が加熱されて発射筒に充填されていく。

 俺はEAVから飛び降りると発射筒を肩に抱え上げて標的補足装置シーカーを作動させた。

「マーキー、船内へ」

「リック、遮蔽が!」

 ミリアムの悲鳴を聞きながら、上空に発射筒の先端を向ける。


 視界の端にミレニアム号の格納庫へと続く斜路へと走っていくEAVの姿が見えた。

 ピーというシーカーのロックオンの音を聞くとトリガーを引く。

 プシュ。

 間の抜けた音と共に圧縮空気により弾頭が空中に発射され4枚の羽が自動で飛び出した。

 発射の反動をぐっとこらえていると、俺から十分離れたところに到達した弾頭のブースターがタイマーにより点火する。

 赤い炎の舌を伸ばしながらミサイルはぐんぐんと上昇を続けた。


 少し離れた場所にレーザーが穴を穿つ。

 慌てて振り返ったところで声が出た。

「おっ」

 全身をシールドで包んだミリアムが地上に展開する連中の放つレーザーから俺を守っている。

「助かったよ。行こう」

 レーザーガンで応射して1人を倒し駆けだした。


 時折振り返って反撃し敵を怯ませる。

 斜路を駆け上がると、ミリアムが斜路の端に乗ったのを確認してハッチを閉めた。

 EAVのそばに固まっているウェイトレスを含んだ3人を見て声をかける。

「悪いがあんたはここに留まってくれ。サーシャさんとラムリーはこちらへ」

 シールドを解いたミリアムを加えて船倉を通り抜けた。

「3人は居住エリアに」

「分かった。ボクらは指示があるまで待機してるよ」


 通路を駆け梯子を登りコクピットのパイロットシートに着座する。

 俺たちを収容すると同時に離床を始めていたミレニアム号はメインエンジンに点火した。

 戦術ディスプレイには動かなくなったコリントⅢを示すマークの横に撃破と表示されている。

 複数の赤い点が光り何らかの飛翔体が発射されたことを警告した。

 見ている間に赤い点は黄色を経て緑色に変わる。

 こっちとの相対速度からミレニアム号に到達不能と判断したようだ。


 その間にもミレニアム号が上昇を続けており、何事もなく大気圏を脱出する。

「カンクン1の周辺宙域を出してくれ」

 虫の知らせに切り替えを依頼した。

 惑星周辺宙域には特に気を付けなければならないものは何も存在しない。

 と思ったら、至近宙域がオレンジ色に囲まれる。

 その範囲が狭まりながら、色がどんどん赤くなっていった。


「大型の艦艇がワープアウトしてきます。推定質量は本船の50倍以上」

 惑星の近くにこんな強引なジャンプをしかけてくるのは統一政府の軍艦しか考えられない。

 しかし、質量50倍以上だと?

「ワープアウトによる時空振動の発生を予測。回避行動を取ります」

「逆だ。シールドを全開にして当該宙域に突っ込め」

 全船への放送のスイッチを入れる。


「戦艦がワープアウトしてくるのとすれ違う。何かにつかまれ。衝撃が来るぞ」

 数秒後に巨大な三角錐状の高速戦艦が実体化した。

 100キロほどの離れたところをすれ違う。

 その途端にガンという衝撃波がミレニアム号を襲った。

 これだけ馬鹿でかい質量のものが空間に捻じこまれてくれば、いくら薄いとはいえ押し出された星間物質が波を形成する。

 その波とミレニアム号がぶつかっているのだった。

 ガタガタと船が振動する。


 戦術ディスプレイには高速でカンクン1の周回軌道に突っ込んだ高速戦艦が、惑星の重力を使ってターンを決めつつあるのが映っていた。

 無茶苦茶しやがるぜ。

「軍の回線で映像と音声受信しました。モニターに出します」

 大佐の階級章をつけた軍人が口を開く。

「登録船籍名ミレニアム号の船長に告げる。直ちに停船して臨検を受け入れなさい。これは命令よ」


 さすがにその身にまとう貫禄は大したものだった。

 冷たい双眸で一撫でされただけで、蛇に睨まれた蛙の気分になる。

「聞こえているのでしょう。リック・マツダイラ軍曹。応答しなさい」

 階級を呼ばれて戦時中の記憶が蘇った。

 反射的に返事をしそうになるのをぐっとこらえる。

 退役したからもう関係ない。


 モニターの中の大佐が目を細める。

「前回は無理やり亜空間ジャンプをして上手くいったようだけど次も成功するとは思わないことね。もし永遠に亜空間を漂うことになったら、フィッシャー中将にも迷惑がかかるわよ」

 サブモニターに目をやると寝室の様子が映っていた。

 年齢も様々な素敵なマギたちがお手々を繋いでいる。


「血縁関係者のやらかしで類が及ぶとはいつの時代の専制国家かよ。まあ、俺としちゃアイツに迷惑がかかろうが知ったことじゃないけどね。それじゃ、あばよ」

「待ちなさい!」

 前回はその瞬間を目にすることができなかったが、サブモニターに映る3人の真ん中に青白い光が浮かぶのをばっちりと見た。

 それと同時に3人の髪の毛が逆立ち、まるで色合いと大きさが違うブロンドの炎が3つ燃え上がったようである。

 それと同時にメインモニターと戦術ディスプレイの表示がブラックアウトした。

 数瞬後には各画面が生き返る。

 サブモニターに映し出されている3人は座り込んでいるものの意識は失っていない。

 ミリアムはカメラに向かって手を振る余裕さえある。

 ホッとしながら現在地を確認しようとして、俺は魔女たちの選択に驚愕することになった。


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