第18話 レオパルト・マークス
「ここまででいい。止めてくれ」
自動運転で宙港に向かっている電動カートのドロイドに命じる。
「目的地にはまだ距離があります。一度頂いた料金は返金できないですがよろしいですか?」
「構わない。ちょっと用事を思い出した」
電動カートが停止し扉が開くと同時に外へと飛び出した。
衣装でパンパンなバッグが引っかかりそうになる。
ミリアムに手を貸して降りるのを手伝おうとした。
「こんなに慌てて降りて。一体どういうこと?」
ミリアムは訝しそうだったが、その時電動カートがサイレンを鳴らし始めガルウイングの扉が勢いよく閉まりそうになる。
背中をしたたかに打たれたが、馬鹿でかい荷物のお陰で扉が閉まらずに済んだ。
ガルウイングの付け根をレーザーガンでブチ抜く。
レーザーガンを口に咥えると有無を言わさずミリアムを引きずり出した。
ミリアムを捕まえていた手を離しレーザーガンを再び手にする。
「俺たちを捕まえるつもりだ。走れ!」
一瞬反応が遅れたがミリアムは宇宙港に向かって走り出した。
くそっ。
グリュースファルの奴らも判断が早い。
統一政府の目的があくまで俺とミレニアム号の確保だということを聞いたのか、取っ捕まえて恩を売ることにしたらしい。
グリュースファルの連中は荒っぽいからマズいな。
手足の1、2本は吹き飛ばしても頭が残ってりゃいいという奴らだ。
しかも、俺はまだいいとしてもミリアムは統一政府軍の確保対象に入っていないだろうから余計に危ない。
そのミリアムは俺の心配をよそに軽快に走っていた。
若さに溢れるストロークは足の速い草食動物を思わせ危なげがない。
その一方でこの俺様ときたら、アホみたいにデカい荷物と背中の痛みのせいでそれほど早く走れていなかった。
ミリアムがちらりと振り返ると叫ぶ。
「荷物を捨てて」
欲しいと言うからわざわざ大枚を払って買ったのに何を言っているんだと思ったが、すぐに道端に放り捨てた。
港と名のつくところにありがちなことだが、周辺の道路は薄暗い。
茶色いバッグは道路脇に見えなくなる。
身軽になった俺はスピードを上げた。
「ターミナルの明かりが届く範囲に入ったらシールドを作動させろ」
「了解! 背中は大丈夫?」
「ああ」
それからは無言で走りターミナルへと突入する。
俺が手首を捻って体の前面にシールドを展開すると同時に、すぐに色とりどりのレーザーの光が咲き乱れた。
レオパルト
衛星グリュースファルを守る主力部隊まで動員して歓迎してくれるとは感涙のプールで溺れそうだ。
クリーム色と黒の制服を着て膝立ち射と立射の2列で待ち構えている兵士の中にデカい円筒形の特徴的なフォルムを見いだす。
大慌てでミリアムの足を払って倒しシールド越しに体を床に押さえつけた。
後頭部から僅かな距離のところをハンドキャノンの高出力レーザーが周囲の空気をイオン化しながら通り過ぎる。
ちきしょう。
アホか、こいつら。
あんなもの食らったら個人用の携帯シールドなんてティッシュペーパーみたいなもんだ。
伏せてなかったら、骨も残らないところだぞ。
レオパルト・マークスの連中がシールド展開する隙間から、ハンドキャノンを狙ってレーザーガンを放った。
金属製の筐体に穴が開く。
ふう。
これでエネルギーパックを交換しても2撃目は防げるだろう。
ミリアムの足を引っ張って柱の陰に退避させる。
射撃音に混じって怒鳴る声が聞こえた。
「馬鹿野郎。ハンドキャノンなんぞ使って消し炭にしてしまったらどうすんだ! 生け捕りにしろという上からの指示なんだぞ」
ホッとするのも束の間で、レオパルト・マークスの士官らしい男の声が続いて響く。
「手足の1、2本は吹き飛ばしてもいいが、間違っても殺すなよ」
ですよねえ。
柱の横から覗くと更に人数が増えていた。
「リック、どうするの?」
ミリアムの声が震えている。
そりゃそうだよな。
これだけの銃口に狙われるというのは子供が経験するにはちょいと苛酷だ。
まあ、俺も年齢的にはほとんど差がないが、10歳の時に志願して改造手術を受けている。
脳も弄られているし、その年齢からドンパチやっていた。
レオパルト・マークスに撃ち返してみるが、向こうのシールドに阻まれて全く役に立たない。
「ちょっとだけ耐えるんだ。もうすぐ迎えの車が来る」
果敢にも接近を図ろうとしていた奴の足を床に腹ばいの姿勢で撃ちぬき転倒させる。
前面の防御に特化した板状のシールドを構えた兵士が前に出てきて、倒れた男をカバーして下がった。
くそー、敵ながらいい動きをしてやがる。
恐らく軍歴持ちか。
このままだと助けが間に合わねえ。
多数の敵相手にはこけおどしにしかならないが……。
呪文を唱えて強く念じた。
燃えろ!
大型のシールド発生装置とエネルギーパックをつなぐケーブルが次々と火を噴く。
レーザーガンのセレクターをセミオートにして撃ちまくった。
短い連射がシールドによる庇護を失った数人を倒す。
さらに俺のものとは異なる色の光条が近くから明後日の方角に飛んでいった。
ミリアムが支援しようとしてくれたらしい。
まあ、初めてにしちゃ悪くなかった。
少なくとも、支援しようという心意気はありがたいし、機を見るに敏なのは間違いない。
倒れた兵士の隙間があっという間に埋まる。
先ほどよりも激しい応射に柱の陰に逃げ込んだ。
同じように身を隠したミリアムに声をかける。
「いい援護射撃だった」
「そんなことよりもこれからどうするんだよ」
俺は特徴的な振動音に顔を綻ばせる。
「迎えの車だ」
慌てまくる兵士を蹴散らしてスパイダータンクが俺たちの前に停止した。
「シールドを切って乗り込め」
ミリアムを搭乗口から押し込む。
続いて俺も乗り込むとミリアムと密着する形になり、思い切り首筋を引っかかれた。
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