第11話 確認作業
「皆さんの立場はよく分かりました。分かりたくなかったけど仕方ないです。それで、先のことを考える前に急いですることがあります。まずは、船倉の荷物を元に戻して固定する必要がある。このまま通常空間に戻って急な動きをしたら船倉がコンテナ1つ分ゼリーまみれになってしまうので」
俺が現状を説明するとラムリーが元気よく手を挙げる。
「私、お手伝いをする」
「いい返事だ。じゃあ、頼りにしているよ」
「うんっ」
にっこにこで百点満点の返事をした。
「俺はその間に積み荷のチェックをします。恐らくあの中に俺が知らずに手に入れた重要なものがあるはずです。それをうまく使えば統一政府と交渉できるかもしれません。俺の減刑と皆さんの母星への帰還を勝ち取るにはその何かが必要です」
「分かりました。私もラムリーと一緒に荷物を戻すのをお手伝いをします」
サーシャさんが請け負うとミリアムも不承不承という感じで発言する。
「それじゃあ、荷物の回収と固定はお姉ちゃんとラムリーに任せる。ボクはコンピュータを扱えるから積み荷のデータと現物を突き合わせるお手伝いができると思う」
「え?」
思わず驚いた声を出してしまった。
ミリアムが肩をすくめる。
「レムニアのマギがコンピュータを使うというのが珍しいんでしょ? そりゃ確かに伝統的なマギのイメージにはそぐわないかもね。でもボクは新世代なの。テクノロジーを排斥はしないよ」
役割分担が決まったので船倉に移動した。
ラムリーが空中に漂うアガルタベリー・ゼリーの容器を集め始める。
それをサーシャさんが組み立て式の箱に収納した。
それを横目に俺はミリアムを連れてコンテナの確認をする。
コンテナの半分以上はアガルタベリー・ゼリーが入っていた。
ただ、どのコンテナに何が入っているかは外からは分からない。
右上の隅に彫られている掠れたコンテナ番号を苦労して読み上げると、俺が貸した小型コンピューターでミリアムが積み荷を確認する。
正規の荷役システムならそんな面倒なことをしなくても照合できるが、個人の宇宙船にそんなものはない。
アホみたいに大量のデータからコンテナの中身を確認できるようにミリアムが簡易的な検索プログラムを提供してくれている。
作業をしながらミリアムが質問した。
「どこに何を置いたのか確認しないの?」
「その辺は荷役ロボットにお任せだからなあ。積み込みは船主が勝手には行えないし」
「それって危なくない? 爆発物とかそんなのが中身だったら大変なことになりそう」
「コンテナに積み込んだときに税関の役人が立ち会ってる。そして閉じるときに封印をするから変なものは紛れ込ませられないことになってるな」
「そんなの役人がグルだったら何の意味もないじゃない」
「まあな。だから一応は俺もコンテナに積み込むときはその場に居る。だけど、その後にどこにどのコンテナを積むかまでは気にしていないんだよ」
「そういうことか」
黙々と何百個もあるコンテナをチェックしていく。
かなり時間がかかったがすべての荷物がどこにあるかを確認することができた。
「ねえ、気を悪くしてほしくないんだけど、一つ聞いていい?」
「なんとなく想像がつくけど、構わないよ」
「これだけアガルタベリー・ゼリーを買ってどうするつもりだったの? 禁制品じゃなかったとしてもこれだけの量よ。食料品店でも始める算段だった?」
「いやあ、元々は別の船で輸送する予定だったのがハイパードライブの故障で足が無くなったって触れ込みだったんだ。卸値の3分の1でいいって言うからさ。市価じゃないぜ。結構な量があるがその金額なら間違いなく売りさばける。それにアガルタベリー・ゼリーは日持ちするからな」
ミリアムは顎に手を当てて考え込んだ。
「だったら買い取りじゃなくて、運送を受託すれば良かったじゃない。故障した船の代わりってことで。あくまで輸送手段を提供するってだけなら積み荷の責任を負わなくていい。利益は少ないけど堅実だよ」
「まったくもってその通りだよ。俺が欲をかいたのが悪いのさ。ミリアム。君は良い商船事務員になれるよ」
「そ、そんなことはないって。こんなの常識よ」
褒められればまんざらでもないらしい。
「リスク分散のためにも積み荷は複数のものに分けるべきだと思う」
「耳が痛いね。まあ、俺も大儲けして婚約者やその父親にいいところを見せたかったんだろう」
「え? 船長って婚約者がいるの?」
ミリアムの顔が険しくなる。
「さっきそんな話は出なかったと思うけど」
「統一政府に追われているって話に比べれば些細なことだろ」
「そうだけどさ。婚約者がいるのに、お姉ちゃんにあんな視線を向けていたんだ。ふーん」
道端に落ちている犬の糞でも見るような目つきになった。
「最低」
「ちょっと待ってくれ。俺の言い方が悪かった。統一政府のお尋ね者になったから婚約は破棄されたんだ。というか、婚約者はもうすでに他の男と結婚してた」
「なにそれ? 酷くない?」
ミリアムの顔に今まで以上の嫌悪感が浮かぶ。
「まあな。テラ時代の言葉に『女心と秋の空』というのがある。それだけ変わりやすいっていう意味らしいんだがな。まさにその通りだな。いずれにせよ、俺はフリーなので……」
「不愉快だよ」
ミリアムが眉を吊り上げた。
「いや、だから、俺はフリーだからね。それに君のお姉さんにあんな目線というけれども、美人を見ると視線が吸い寄せられてしまうのは……」
「そうじゃなくて、船長の元婚約者が浮気者なのを評するのに女性全体が心が変わりやすいというように言うのが不快なの」
「あ、そっち?」
「当然でしょう。そんな特定の一例のためにボクたちまで心変わりをしやすいと言われたら面白くないです」
キッと俺のことを睨んでくる。
俺は不用意な発言をしたことを詫びるしかなかった。
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