第10話 滞在許可証
8時間後、目を覚ました俺はシートベルトを外しパキポキと音をさせながら体を動かす。
その反動でフヨフヨと浮き上がった。
天井を強く押して床に戻り、シートの端に足を引っかける。
メインコンピュータに船内全てに俺の音声が伝わるように指示した。
「船長のマツダイラです。お早うございます。本船をご利用頂いている乗船者の方にご案内です。これより本船自慢のお食事をご提供します」
ふざけたアナウンスをするとマイクを切って居住区域に向かう。
前回と代わり映えのしない内容のものを持って居室に入った。
挨拶を交わして食事をする。
相変わらずミリアムは俺のことを信用ならなそうという目で見ていた。
救いの手が意外なところから差し伸べられる。
「ねえ、船長。なにかお話して」
ジュースを飲んでいたラムリーがせがんできた。
俺が今まで行ったことのある惑星の不思議な話を聞かせてやる。
じめじめぬめぬめした星の湿地帯に生える踊るキノコの話を身振り手振りを交えてすると意外と受けた。
その流れで俺が今どのような状況にあるこということを話して聞かせる。
統一政府に追われている立場だということを聞くとサーシャさんは同情してくれたが、ミリアムは鼻で笑った。
「それってどう考えてもはめられたってことじゃない」
「いや、確かに俺も多国間交易に関する通達を確認してなかったのは事実だからな」
「だ・か・ら、アガルタベリーがウルバリー人の間で危険だから禁止物質だなんて嘘っぱちなの」
「え?」
「お姉ちゃんも覚えてるでしょ。7年ぐらい前だっけ、ウルバリーの主府でアガルタベリーの乗ったアイスクリーム食べたよね」
「そういえば、そんなことあったわね」
なんだと?
「いいなあ。私も食べたい」
ラムリーが自分だけ食べてないと拗ねたので、食品倉庫の冷凍庫を引っ掻き回してアイスクリームを探してくる。
小ぎれいな器に盛りつけ、チョコレートソースをかけると、ゼリーの容器の中からアガルタベリーの実をほじくり出して上に乗せてやった。
「船長、ありがとう」
ラムリーが目をキラキラさせながらスプーンでアイスをすくって食べる。
両手をほっぺに当てた。
「おいし~」
幸せそうな姿を見ると俺の心も和む。
ラムリーがアイスと格闘を始めたので2人との話に戻った。
「7年の間に良くない症状が出ることが分かったのかもしれないぜ」
「そんなわけないでしょ。ウルバリーの人たちも普通に食べてたよ。ふっつ~うに」
ミリアムが自身たっぷりに言い切った。
俺はポケットから情報端末を取り出す。
大きな声で叫べばメインコンピューターが応答してくれるのだが、この部屋にマイクがあるのを悟られるのはまずい。
2か月ほど前の多国間交易に関する通達に通達にアガルタベリーに関するものがあるかを検索してみる。
膨大なリストの中に取引禁止物品として確かにアガルタベリーが含まれていた。
その内容を壁にはめ込まれたモニターに出力する。
「ほら、見てみろよ。確かに出ているぜ」
「そんな……」
ミリアムは絶句した。
「7年というのは結構長い時間だ。まあ、コールドスリープから目が覚めて世の中が変わっていたショックは分かる。俺もそこまで長くはないが3年ほど意識を失っていたことがあるからね。目が覚めたら停戦しているし世の中が変わり過ぎていてびっくりしたよ」
ミリアムは唇を噛みしめている。
「というわけでだ、この船は統一政府に追われている。トラータ星系じゃあ流石にまずいだろうからどこか安全な場所までは送っていくよ。そこから旅客船でレムニアに帰るといい」
「レムリアまでは送っていただけませんの?」
サーシャさんがちょっと甘えたような声を出した。
「今お話ししたように俺はお尋ね者なんです。一緒にいるとご迷惑がかかるでしょう?」
「でも、私たち、旅客船のチケットを買うお金も持ってませんわ。それどころか、テラ統一政府の滞在許可証も無いですし」
「有効期限が切れたものがあるでしょう? それも持ち出さなかったんですか?」
サーシャさんが困ったような顔をして上目遣いに俺のことを見てくる。
もじもじとしていた。
ミリアムが割り込んでくる。
「そうなんです。これを逃したら恒星間宇宙船なんて来ないだろうと思って慌てていたから持ち出すのを忘れちゃって」
サーシャさんが目をパチパチとした。
「なにを言っているの。私たち最初から滞在許可証なんて持っていなかったでしょ」
「お姉ちゃん!」
うわあ。マジかよ。
レムニアは特殊な立場で、テラ人類統一政府に加入していない。
ターフとチュルークとの戦いの際にはウルバリーがテラ人類側に参戦する。
その際にウルバリーと攻守同盟関係にあることからレムニアは、テラ人類側に立つことになったが、それまでは統一政府に対して中立の立場だった。
そのため、統一政府に加入する星への上陸や宇宙船への乗船には滞在許可証が必要となる。
5年前は戦時中だったので滞在許可証の発行手続きは簡素だった。
それなのに所持していないということは……。
「ミリアム。大きな声を出さないで。ここで嘘をついたらマツダイラ船長にご迷惑がかかっちゃうでしょ」
「お姉ちゃん……、私たちが嘘をついて騙したんだったら船長に責任はないじゃない。それを正直に言って持ってなかったのを知っちゃったら逃れられないでしょ」
「逃れられないって?」
「私もよくは知らないけど、たぶん滞在許可証のないのを知って私たちを船に乗せているのってかなり問題になると思うわ」
俺は頬をヒクヒクさせながら手元の情報端末に質問をする。
帰ってきた答えは禁固200年には及ばないものの、なかなかに痺れるものだった。
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