第6話 再び宇宙へ

 地上に戻ると無線機らしきものを手にした盗掘者のボスが顔をみせる。

「あんたのおかげで、戦闘ユニットが動けなくなったようだ。あれには苦労していたんだよ。助かるぜ」

「仲間に被害が出なかったかい?」

 スピーカー越しで顔が見えないのをいいことに気遣うフリをした。

 本音では戦闘ユニットのことを黙っていやがってふざけるな、といいたいところである。

 しかし、シールドエネルギー残量が心許ない中で無駄に事を構えるのは得策では無かった。


 格納していたスパイダータンクの車輪を出すと車載砲をホバーシップに向けるようにする。

 ギアをバックに入れてミレニアム号へと走り始めた。

 無断採掘者のホバーシップから十分に離れるとハッチを開けて上に出る。

 やっぱり、風を受けてのドライブは最高だった。


 カーゴシップとの通信が回復したのでサンターニ2周辺宙域の状況が入ってくる。

 増援を含めて6隻のコルベットと1隻の大気圏内強襲揚陸艦が衛星低軌道上へ集結しつつあるとのことだった。

 向こうの作戦は明らかである。

 揚陸艦でサンターニ2に着陸し、戦闘機でカーゴシップのエンジンのみ破壊して地上に足止めする気だ。


 俺が必死にエンジュリウムを探している間に制圧完了できると計算している。

 あちらさんは時間的に十分間に合うと思っているはず。

 それはある意味で正しかった。

 露天掘りでチマチマ集めていたら他星系に跳ぶだけのエンジュリウムを集めるのに最低でも24時間はかかる。

 いや、以前ならいざ知らず、今ではそれだけの量を集めることはほぼ不可能だろう。


 まごまごしているうちにホールドアップ。

 見事リック・マツダイラを逮捕し、船倉の中身を確保となるはずである。

 ところが実際には、ターフ人の戦闘艦内の通路が竪坑代わりになっているおかげで着陸してからこれまでに2時間もかかっていない。

 星系間の亜空間跳躍1回分のエンジュリウムは集まっているので、すぐにでも飛びたてる状況だった。

 

 やれやれ。

 また地上とお別れか。

 まあ、宇宙も悪くないんだけど、俺は地上に足がついている方が居心地がいい。

 というか、帰る場所が欲しいんだよなあ。

 俺の生まれた母星は異星人との戦争で人の住めない環境になっちまった。

 だから帰る家が欲しいという想いがある。


 クソ。

 アニータとの結婚が破談になったのが痛い。

 俺は着ている服の胸のポケットからプリントされたアニータのポートレートを取り出して眺めた。

 そりゃ3次元立体映像ホログラフで再生するのも悪くない。

 でも、作戦行動中は私物の電子機器は使用禁止なので、軍人は習慣的にみな印刷された写真を好んだ。

 それにホログラフは触れない。

 写真なら指で触れてキスをすることができる。

 それで蘇る記憶で孤独に耐えて生きていくことができるのだ。


 まあ、ぶっちゃければ、地上に俺を待つ人が居なくても、カーゴシップに一緒に乗ってくれるかわい子ちゃんがいれば全然構わない。

 しかし、戦時でもなければ進んで宇宙船に乗ろうという女性は少なかった。

 少なくとも元婚約者は宙港係留時を除けば1度もミレニアム号に乗ったことはない。

 俺はアニータの写真を一瞥して未練がましくまたポケットにしまった。


 元英雄という肩書が輝きを失いつつある中でアニータ以上にいい女が俺と一緒になってくれる見込みは少ない。

 ため息と共に近くなってきたカーゴシップを眺めた。

 年季が入ったということでこんな名前を付けておいて言うのもなんだがミレニアム号はイイ船だ。

 だけど、ハグとかはできないんだよな。


 前方に見えるそのミレニアム号の横に一瞬数人の人影のような姿がチラつく。

 目をしばたたかせるとその映像は消えていた。

 ん? 蜃気楼か?

 カーゴシップの下に入り、上陸デッキの斜路が降りてくる。

 メインコンピュータのミレがスピーカーで呼びかけてきた。


「マツダイラ船長。揚陸艦の降下が始まってます。至急コクピットに戻ってください」

 お、髭面の連中、俺がエンジュリウムを手に入れたのを、星系内パトロールにどうにかしてチクリやがったな。

 まったく油断も隙もありゃしねえ。


 マーキーに指示を出す。

 スバイダータンクの格納と固定、採掘したエンジュリウムの洗浄とハイパードライブへの投入を命じた。

 俺は斜路から通路を走りラダーを上ってコクピットに駆け込む。


「揚陸艦の高度は?」

「現在、衛星低軌道から35パーセント降下。戦闘機が発進可能な高度まで20分の予測です」

 予想よりも早い。

 俺はパイロットシートに座ると同時に発進を命じた。

「進路は自転方向、フルスロットルでぶっ飛ばせ」


 空中に浮かび上がり、着陸脚を格納した振動が伝わってくる。

 次いで急加速によりシートに押し付けられた。

 断熱圧縮による熱で赤く光りながら降下してくる揚陸艦がメインモニターにどんどん大きくなる。

 高度3万メートルほどですれ違った。

 まあ、すれ違ったというが10キロは離れている。

 あばよ。


 あとは衛星軌道上でコルベットに拿捕されないようにするだけだ。

 惑星の重力圏では相対的に速度が遅い。

 その状態でシールド展開したコルベットに押し包まれると身動きが取れなくなる。

 他に非破壊性弾による攻撃をしてくることも考えられた。

 それに引き換えこちらはそんなものは積んでいない。

 さすがにコルベットの乗員に人的被害を出すのはためらわれた。

 そういう意味ではこの戦いはハンデがある。

 まあ、でも、先に布陣したほうが有利だし、ちょっとした仕掛けもできるんだよな。


 俺がエンジュリウムを採掘している間に、ミレニアム号は戦争前に配備されていた防御衛星の生き残りとの通信を確立し支配下に置いていた。

 降下前の置き土産というのは防御衛星に取りついてプログラムを書き換えるための小型ロボットである。

 ちなみに小型ロボットは旧式であるが防御衛星のメンテナンスを行う制式品だった。

 だから、防御衛星はなんの抵抗もしないし、異常を知らせる発報もしていない。


「撃て!」

 3基の骨とう品ともいえる防御衛星がコルベットに向かってレーザーを吐き出す様子がモニターに映し出された。

 予想通り出力が低すぎて最新式のコルベットにはほとんど損害を与えられない。

 しかし、シールドを展開していない背後から撃たれたことによりコルベットは慌てて回頭した。

 その隙を逃さず俺はミレニアム号を加速させる。

 ミサイルが飛来するのを近接防御用多銃身レーザーで撃墜しながら、ミレニアム号は包囲網を突破した。

 

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