もふもふたちとの出会い


 繁茂する木々の間を、白狼ホワイトウルフとリーファは猛スピードで疾走していく。

 ぼくは、それについていくのかやっとだった。


 やがて、土の地面が丘の様に大きく盛り上がっている場所までやってくる。

 その丘の麓部分には、人ひとりが入れるほどの穴が穿たれていた。


 白狼ホワイトウルフに続き、リーファも躊躇なくその穴の中へと入っていく。


(……だいじょうぶかな?)


 ぼくは、警戒しつつ、ひとりと一匹のあとに続いた。


 穴の通路は天井が低く、少し屈んで進まないと頭をぶつけてしまいそうだ。

 長さもそれほどではなく、五、六メートルもいくと突き当たりへと到達した。


 そこは少しだけ広い空間となっており、もう一匹、別の白狼ホワイトウルフの姿があった。

 最初の一匹よりも、ちょっと身体は小さい。


 地べたに横たわっており、呼吸がやや荒かった。

 どうやら、衰弱している様子である。


 その原因についても一目瞭然であった。

 寝そべる白狼ホワイトウルフの腰の辺りには、矢が一本突き刺さっている。


「あうぅ」


 リーファが心配そうな顔でぼくを振り向く。


 ぼくは頷いてから、衰弱する白狼ホワイトウルフのそばまで歩み寄って屈み込んだ。

 矢は、かなり深く刺さっているようだ。傷口の周辺の毛が赤黒く染まっており、地面には乾いた血溜まりができている。


 これを引き抜くのは危険だ。臓器や神経などを傷つけてしまうおそれがある。

 けど、もちろん、このままにはしておけない。


「ワールドイズマイン」


 眼の前から、白狼ホワイトウルフの姿は消えた。地面に一本の矢のみが残される。


 たしか白狼ホワイトウルフの毛皮は素材として高値で取引されている。

 人々がまた森へと深く入ってくる様になれば、こういった事も起きてしまうか……。

 あるいは、ゴブリンに撃たれた可能性もなくはない。連中の中には、弓を使うヤツもいたから。


 ぼくは、矢を拾い上げる。


「ワールドイズノットマイン」


 白狼ホワイトウルフの腰に突き刺さっていた矢が消えてなくなる。

 自らの身体に異変を察知したらしく、白狼ホワイトウルフは目を何度もパチクリとさせている。


「リーファ」

「あうッ」


 彼女は、即座にこちらの意図を理解してくれたようだ。

 背負っていたリュックを地面に下ろすと、中から小瓶をひとつ取り出す。回復薬である。

 それを受け取ったぼくは、開封して薬液を白狼ホワイトウルフの傷口に注いだ。

 やがて、白狼ホワイトウルフは呼吸も正常になり、むっくりと身を起こす。


「あ、ムリはしない方がいいよ」


 こちらの心配はよそに、白狼ホワイトウルフはぼくへ近寄ってくる。

 こちらをじーっと見つめてきて、徐ろに、ぼくの肩や背中に頭を擦り付けてきた。


(やば……か、かわいい)


 ぼくは恐るおそる、もふもふの白い背中をなでなでする。白狼ホワイトウルフは気持ち良さそうに目を細めた。

 ひとしきり、もふもふを堪能させてもらう。

 白狼ホワイトウルフは、今度はリーファの下へと歩み寄った。


「ガルゥ、ガルルウゥ」

「がうがう、がう、がうがう」


 しばし会話を交わしていたらしいリーファと白狼ホワイトウルフは、そろってこちらを向く。つぶらな瞳で、ぼくをじいーっと見つめてくる。


「な、何?」


 戸惑うぼくに、リーファが言う。


「おれい」

「え、ぼくに?」


 白狼ホワイトウルフがまるで頷くみたいに首を縦に振る。


「いや、いいよ。そんなの」


 別に見返りを求めていた訳ではない。それに狼の魔獣からのお礼と言われても、具体的に何も思いつかなかった。


 けど、白狼ホワイトウルフとリーファはぼくを見つめ続けてくる。

 ぼくらをここへ案内した、最初の一匹もそれに加わる。


 つぶらな六つの瞳はずるいよ。


「わかった。けど、すぐには思い浮かばないから、次の機会までに考えておくよ」


 ぼくらは、穴の外へと出てきた。それと、ほぼ同時のことである。

 バサバサッ。

 頭上で鳥のものらしき羽音がした。


 顔を上へ向けると、枝葉のすき間に黒い鳥影が見えた。こちらへ猛スピードで降下してくる。

 明らかに、まっすぐぼくへ向かってきている。けど、攻撃をし掛けてくる様な雰囲気は皆無だ。

 鳥はぼくの右腕の上に止まった。


「クックー」


 グレーっぽい羽色に赤い斑模様。

 今日は、やたらもふもふに縁があるな。

 よく見ると、鳥の脚から紐が伸びており小さな木筒がぶら下がっている。

 伝令鳥?


 ぼくは、筒を開封して中を確認する。一枚の手紙が封入されていた。

 取り出してみる。差出人欄にはこうあった。


『アリッサ・バラードより』


 な、何で、ぼくの居場所がわかったんだ?


 まあ、有能な鑑定士である彼女のことだから、何らかのスキルでこちらの現在地を把握できたのかもしれない。

 別に、彼女にであれば、こちらの所在地を知られていても問題はない。


 手紙を一読したぼくは、しばらくその場を動けずにいた。

 その内容は、ぼくに衝撃をもたらすに十分なものだった。

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