ゴブリン相手に無双する
今まさに、ぼくへ襲いかかろうとしていたゴブリンらの姿が目の前から消えた。
すかさず、ぼくは地面に落ちている手斧と短剣を拾い、レイピアも回収する。
さすがに、ちょっと重い。
それらを抱えて、ぼくは木の陰に身を隠した。
「ワールドイズノットマイン」
ゴブリンたちは、ぼくを探しているのか辺りをキョロキョロと窺い見ていた。
さらに、手にしていた武器もない事にも気づいたらしく、揃って足下を眺め回す。
その一連の行動は、ザックスとあまり変わらない。
次の瞬間、ゴブリンらの頭上から勢いよく何かが降下してくる。
リーファだ。
レイピアをなくしたゴブリンの脳天に、彼女の膝蹴りが炸裂する。
高さ十メートル超からの強烈な一撃。
(これは、効いたはずッ!)
ゴブリンは地面に卒倒する。が、すぐに起き上がった。結構、タフな奴である。
腫れた頭部を手で押さえながら、ゴブリンは涙目で自らに蹴りを食らわせた相手を睨みつける。
憤怒に満ちた形相で、ゴブリンはリーファに飛びかかる。
リーファは、軽くぴょんと跳ねてそれをかわした。
さらに【
(あの一体は、リーファに任せるか)
ぼくが回収した手斧と短剣は、錆だらけ。ロクに使い物になりそうもないそれらは、ヤブの奥へ投げ捨てた。
レイピアはまだ新しく、鋭さを保って見えた。それを手に、ぼくは二体のゴブリンと向き直る。
「ワールドイズマイン」
即座に【
ぼくの剣術の腕は人並みにも劣る。
ザックスからは、『お前ほどセンスに欠ける生徒は初めてだ』と散々詰られた。
二体のゴブリンの幻影は、警戒感も露に辺りを見回している。
その一体の幻影のすぐ背後にぼくは立つ。レイピアの剣先を、後頭部に突きつけた。
この状態からであれば、たとえ剣術センスゼロのぼくであっても外すはずがない。
「ワールドイズノットマイン」
すかさず、レイピアを思い切り突き出す。
「グギャアァッ!」
叫び声を上げて、ゴブリンは斃れる。
同じ要領でもって、もう一体にもレイピアを突き刺した。
リーファは地面に降りてきており、その傍らにはゴブリンが横たわっている。
町の冒険者らの話によれば、この森のゴブリンたちは腕力と俊敏性は驚異的らしい。
けど、耐久力はさほどでもないようだ。
ぼくは、腰から短刀を抜く。それでゴブリンたちの右耳を切り取っていく。
これを冒険者ギルドへ持っていけば、討伐の証明となるからだ。
緑色の耳を三つ、麻袋に詰める。
また、唸り声が聴こえてきた。
「グルルル……」
木々の向こうから、ゴブリンが数体、こちらへ近寄ってくるのが見えた。
(……もう、次がきたか)
この森のゴブリンたちは、かなり高度に組織化されているらしい。
何処かに、伝令役のゴブリンがいたのだろう。
ぼくらの存在は、既にこの森のゴブリンたちに広く伝達されているはず。
「グルゥッ」
別の方向からも、ゴブリンたちが現れた。
ぜんぶで八体。携えている武器も様々である。長剣、槍、弓矢を手にするヤツもいた。
(まずは、武装解除させるか)
特に弓矢は高所に退避したリーファにとっても脅威となりえる。
「ワールドイズマイン」
およそ五分で、ゴブリンたちを全滅させた。
リーファもひとりで、二匹始末していた。
ぼくらのほぼ無双状態である。
こいつら、武器をなくすと戦闘力が大幅に減衰するようだ。
(それにしても、歯応えに欠ける気もするな)
アルゲーナの冒険者たち、それもかなり腕に覚えのある強者たちが、手に負えなかったと聞いているけど……。
「がう」
リーファが吠えるので、その視線の先を見やる。
木々のすき間に、小柄な魔物の影がズラリと並んでいる。
次々とやってくるな。しかも、今回はやたら数が多いぞ。十、いや二十体はいる。さすがに相手するのは厳しいか……。
ぼくの頭上で、タンッと小気味良い音が響く。
見ると、樹木に矢が突き刺さっていた。
それが飛来してきたであろう方向に目をやる。そちらにも、数体のゴブリンがいる。
ぐるりとあたりを見回すと、どうやらぼくらは包囲されているらしい。
総勢、三十体くらいのゴブリンたちに。
(……ぜ、前言撤回。歯応えありすぎ)
ぼくは、リーファの手を握る。
「ワールドイズマイン」
静けさに包まれた森を、ぼくらは駆ける。
ちょっと、ゴブリンを舐めていたかも。
【
「こ、これ全部、おふたりでえ?」
冒険者ギルドの館で、ぼくは回収した計十一個のゴブリンの右耳を、麻袋から取り出してカウンターに置いた。
受付の女の子は、それらに目を丸くする。
「す、すごいですぅ」
館内に居合わせた冒険者たちも、俄に信じられない様子である。
「〈暁の鷹〉の連中ですら、五匹狩るのがやっとだったんだぞ」
「けど、この近くで、他にゴブリンの棲息地なんてないわよ」
「どっか、別の場所で狩ってきたやつとかじゃないのか?」
……何か、詐欺まがいの行為を疑う声まで聞こえてくる。
「あ、これも回収してきたんですけど」
ぼくは、ゴブリンたちから奪還したいくつかの武器をカウンターに置く。
重かったので、さすがに全部は無理だった。比較的、損傷の少ないものだけ選んで、リーファと手分けして運んできた。
「……こいつは」
人々を掻き分けてカウンターの前まで出てきたのは、きのう話し掛けてきた狼頭の男だ。
彼は、卓上の武器の中から、長剣を手に取る。
刃や柄の部分を丹念に見てから頷く。
「間違いない。半年前になくした剣だ」
すると、他の冒険者等もカウンターに置かれた武器に興味を示す。
「この弓、わたしのだわ」
「つーかこれ、うちのリーダーの短剣だ」
その場の人々の視線が、ぼくらへ集まる。
「てことはあんたら、本当にあの森のゴブリンを狩ってきたのか?」
「……は、はい」
一拍の間があり、どっと歓声が湧く。
「すげーッ!」
「まじかよ」
「おたくら、一体なにもんだ?」
その後、ぼくらは彼らの質問攻めに遭う。
「ランクはいくつなんだ」
「これまで何処で活動をしてたの?」
「つーかうちのパーティーに来てくれよ」
ぼくらが確かに狩ったと、信じてもらえたことは嬉しい。
けど、正直、早く解放してもらいたかった。あまり目立つのは好きではないし。
突然の事に、リーファも酷くびっくりしている様子である。
怯えた顔でぼくの腕にしがみついていた。
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