第39話大将の言葉

タカシは段々と自室に引き籠もるようになった。

ご飯の時だけ現れて、シャワーを浴びると自室へ。外が怖いのだ。

めぐみは、黙って見守った。夫婦の会話も無くなった。

それが2月間程続き、ある日の夕方、一念発起してコンビニへ買い物に出た。

そして、帰りにでっかな赤ちょうちんを目撃した。

そこは「鳥ひろ」と、言う焼き鳥屋だった。

興味本位で入店した。

大将は、

「いらっしゃい!お兄さん、カウンターで。飲み物は何にします?」

「生で」

まだ、5時過ぎなので客はまばら。

ビールを一気飲みした。そう、この2ヶ月間、酒は飲んで居なかった。

「お兄さん、何の仕事してるんですか?」

「公務員です。でも、今は休んでます」

「公務員も大変だからねぇ、どこが悪いの?」

こういう質問に対して答える義務はないのだが、タカシは素直に、

「精神です」

「そっか、うつ病かなんか?」

「……はい」

本当は統合失調症だが、うつ病と偽った。

「この2ヶ月間、引き籠もりで今日は勇気を出して、外出しました」

大将は焼き鳥を焼きながら、こう言った。

「実は、知り合いに引き籠もりのうつ病患者さんがいたんだけど、自殺しちゃってね。そう言う、精神病の人を見ると応援したくなるんだ。引き籠もりだっけ?」

「はい」

「毎日、一杯で良いからうちに来なさい。家近いんでしょ?ツマミはサービスで出すから」

「ありがとうございます」

「先ずは、外に出るクセを付けようか?日中は、1円パチンコでも打って」

タカシは焼き鳥を出された。

「大将、僕は焼き鳥頼んで無いよ!」

「サービス、サービス」

「大将、あ、ありがとう」

タカシは涙目になった。福祉課で良く対応したお客様から、

「ありがとうございます」

と、言われたが今度はこっちがありがとうと言う立場になったのだ。


お礼を行って退店すると、帰宅した。

「タカシ君、心配したよ!スマホも忘れてるし」

めぐみは洋介の頭をタオルで拭いていた。2人とも風呂上がりだった。

「めぐみ、今日から引き籠もりは辞める。約束したんだ」

突然の言葉に、めぐみはキョトンとした。

「角の居酒屋さんの大将に、サービスするから毎日来なさい!って言われたんだ。僕は人の目線恐怖症だったんだ。でも、明日から1日中外に出るよ」

めぐみは破顔して、

「やっと、普段通りに生活出来るのね。日中は何をするの?」

と、洋介にズボンを履かせながら尋ねると、

「パチンコ」

「パチンコ?打った事無いのに珍しいね」

「パチンコ屋って、色んな人がいるだろ。刺激になるかな?っ思って。1円パチンコならダメージも少ないし」

「それでいて良いよ。週末に一緒にその焼き鳥屋さんに行ってみたい」

「いいよ」

「じゃ、夜ご飯にしよ」

「うん」


翌日からパチンコを打ち始めた。席に着きどうすれば玉が出てくるのか探していたら、隣のおばさんが現金サンドを指さした。

「お兄さん、パチンコ初めて?」

「はい」

「ここの、左の釘に向かって玉を打てばいいのよ」

「ありがとうございます」


台は、牙狼と書いてあった。

打ってると、マスクが出てきたりして、7で当たった。

「ビギナーズラックね」

「はい」

おばさんはドル箱を5箱積んでいた。

当たりが止まらない。タカシは20箱出した。

1円パチンコだから、大儲けはしていないと思い、店員さんを呼び終わりにした。

鳥ひろの時間だ。

おばさんも辞めた。おばさんと一緒に交換所に向かった。

すると、驚愕のお金が出てきた。

10万3千円。

「おばさん、間違っているよね?」

「何言ってんの?20箱ちょっとも出れば10万円よ!」

「だって、1円パチンコで10万円なんて」

「お兄さん、あそこは4円パチンコなの。知らないで打ってたの?」

「はい」


帰宅すると、めぐみはカレーを作っていた。

鳥ひろで一杯だけ飲んで帰ったのだ。

「ねぇねえ、めぐみちゃん」

「どうしたの?」

「パチンコで勝った!」

「いくら?」

「10万円。半分渡すよ」

「10万円!いいよ、いいよ。それ、全部タカシ君のお小遣い。それで、暫くはお金の心配しなくていいね」

「うん、ありがとう」

「さっ、ご飯にしましょ」

家族3人で、カレーライスを食べた。

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