第33話不眠症

タカシはいよいよ、父親になる事の責任を意識するようになり、更に仕事の量も増えた。

めぐみは産休を取った。

2人は生まれてくる子どもの為の準備を始めた。

ベビーベッド、ベビーカー、車にはチャイルドシート。

全てが、上手くいくはずだった。

タカシは、どんなに疲れても夜眠れなくなった。眠たくなるまでベッドの上で小説を読むのが日課になったが、朝まで起きている事は珍しくなかった。

めぐみは、妊婦さんなので良く寝た。

タカシはめぐみには秘密に心療内科を受診した。

不眠症。

タカシが始めて下された診断名である。

睡眠薬を処方され、今までの分を取り返すかのように、良く寝た。

「あっ、タカシ君。蹴った」

と、言ってお腹の中の子供が動く不思議さを感じだ。エイリアンみたいな感じがした。

「そろそろだね」

「うん」

「出産、立ち会うよ」

「ありがとう。最近、良く眠れているね」

「えっ」

「私、気付いていたよ。タカシが寝てない事を」

「心療内科で不眠症と言われたんだ。だから睡眠薬のんでるの」

「無理しないでね」

「うん、分かった」 


タカシは睡眠薬だけでは無く、精神安定剤も服用していた。

以前より、仕事のスピードが違う。

どんどん仕事を捌いていく。

この時期はまだ、不眠症だけだった。周りは気付いていない。

そして、当の本人も気付いて無い。

これから、襲ってくる精神病を。

めぐみが臨月を迎えた。出産予定日が近付くとタカシは夜中でも産婦人科に連れて行けるように睡眠薬を暫く飲まなかった。

ある晩の深夜1時。陣痛が始まった。

タカシはめぐみを産婦人科に連れて行った。


医師がタカシに状況を説明した。

陣痛促進剤を投与してもこの晩は分娩出来ないと。

だから、翌日の昼になるだろうと。

タカシ、ロビーで横になった。

暫くすると、めぐみがストレッチャーで部屋に運ばれた。

めぐみのベッドの側に座る。

いよいよ、明日は分娩だ。めぐみは暫くまどろみ、タカシは外で喫煙した。

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