第30話贈る言葉

タカシは金曜日の夜に、めぐみを焼き肉屋に連れて行った。

タンを焼きながら、2人はビールを飲んでいる。取り皿に、タカシは焼けた肉をどんどんめぐみに取り分ける。

タカシは、ミノが好きだったのでミノしか食べない。

そして、センマイの刺し身を食べる。

この日は2人に取って特別な日。

付き合って2年目の記念日なのだ。

タカシは29歳、めぐみは24歳。

そろそろ、結婚を考えるタイミング。だが、タカシはそれには触れず、ミノを食べながらビールを飲んでいた。


「タカシ君、お仕事は忙しいの?」

「ん?仕事?……慣れてるから忙しくないよ。そんな事を聴いて何だい?」

「いや、最近タカシ君の顔つきが違うから。今日だってそう。目が笑ってない」

「そんな事無いよ……、近眼だからさ」

めぐみは腑に落ちないまま、カルビを食べた。

このカップルは、週に2回セックスをしている。

普通のカップルだ。

めぐみは、パチンコ屋のマネージャーに出世していた。

ホームのアルバイト店員の指導と、店舗内の情報をSNSに載せる業務に就いていた。

めぐみは勤続6年目だ。

真面目に働けば、大抵の職場では出世する。

タカシは市役所で24歳の時から係長だ。

部下も順調に育ち、たまにカウンターに座る事があるが問題ある客専属となり、普段はPCとにらめっこ。


2人はプライベートではお互いに、仕事の話しはあまりしない。

プライベートまで、仕事の話しをしていたら楽しめなくなるからだ。

今夜はタカシはめぐみが心配するくらい、ビールを飲んでいた。

「タカシ君、そんなに飲んだらまた、血を吐くよ」

「大丈夫。あれから、3回しか吐いてない。きっと喉を傷付けたんだと思うよ」

しめにめぐみはテールスープ、タカシは冷麺を食べた。

時間はまだ、20時。

タカシはめぐみをバーに誘った。

まだ、タカシは飲むつもりなのだ。


2人がカウンター席に着くと、タカシはジントニック、めぐみはレッドアイを注文した。2人は暫く無言で飲んでいた。

「なぁ、めぐみちゃん。僕は君とずっと一緒に居たいんだ」

「うん。別れないよ」

「だから、僕と結婚しませんか?」

と、タカシはつぶやいた。めぐみは悟った。

この言葉を言うために、思いっ切り飲んでいた理由が。しかし、タカシが泥酔している様子は無い。

めぐみは、

「うん。タカシ君と結婚したい」

タカシは破顔して、スーツのポケットから小箱を取り出した。

しかし、その瞬間、その小箱を床に落とし転がっていく。

タカシは顔を赤くして、

「ごめん。これ受け取ってくれる?」

そんな、タカシがめぐみには可愛く見えた。

めぐみは小箱を開くと、ダイヤの指輪だった。

めぐみは涙を浮かべた。

「タカシ君、幸せになろうね」

「もちろん、そのつもりだよ。早速、僕らの家探しと、めぐみちゃんのご両親にご挨拶して、オレんちの親に会ってもらう」

「……そうだね」

「なんだ、元気が無いな」

「ん〜ん、夢見てるみたいで」

「夢じゃないよ」


2人はその晩は、タカシんちで過ごした。

タカシはシャワー浴びると、ソファーで爆睡した。

そのかわいい寝顔に、めぐみ軽く唇にキスをした。

そして、めぐみもシャワーを浴びに行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る