第29話タカシの吐血

日曜日、めぐみはタカシの賃貸マンションに向かった。

ドライブをしようと約束だからだ。

タカシは車を持っている。

めぐみはタカシの家のインターホンを押した。直ぐにカギは開けられた。しかし、タカシは酒臭い。

ドライブ出来る様な状態では無い。

めぐみは、タカシにブラックのアイスコーヒーのペットボトルを渡した。

タカシは虚ろな目で、ありがとうと言った。

しかし、その後、直ぐにトイレに駆け込んだ。

タカシはトイレで嘔吐したようだ。めぐみはタカシの背中を擦った。

タカシがタオルで口元を拭いていたが、めぐみがトイレを覗くと、真っ赤な潜血を吐いていた。 

めぐみは心配して、病院へ連れて行こうとしたが、タカシは表情を崩さず、

「オレ、酒飲みすぎると血を吐くんだ」 

と、言ってアイスコーヒーを美味しそうに飲んだ。

前夜、強かに酒を飲み酔っ払ったらしい。


めぐみはリビングのソファーに座り、2人して、録画の映画を見た。

「幸せの黄色いハンカチ」だった。

途中、タカシはシャワーを浴びに行った。

無精ひげを剃り、いつものカッコいいタカシに戻った。

タカシがそこまで酒を飲む理由はいくらでもある。めぐみに出来るのは、ただ側にいるだけ。

めぐみは、タカシの話しを聴いてあげた。

タカシは、自分が好きになった女性と悲しい別れ方をしていて、いつかめぐみとも悲しい別れ方をするのかと心配しているようだった。

そう話しながら、タカシは涙を流した。めぐみはタカシを抱きしめた。

自然、めぐみも涙を流した。

こんなに悲しい男性をめぐみは知らない。


夜ご飯は、タカシんちの近所の中華料理屋で食べた。

タカシはさすがに、酒を飲まなかった。めぐみは生ビールを飲んだ。


タカシは27歳だが、めぐみには子供の様に思える時もある。

口の周りを汚しながら酢豚を食べたり、だいたいタカシはクチャラーで、音を立てて食べる。

そのすべてが、めぐみは好きだった。

仕事中はあんなに、スマートなのに。

妹の書類申請の時に対応したタカシは、デキる男だ。だけど、プライベートは子供っぽい。

その晩は、店で別れた。めぐみは、タカシに

「タカシ君、飲みすぎないでね」

と、言うとタカシは、

「うん」と、答えた。

こうやって、2人の付きあいが2年目を迎える時の話しまで飛ぶ。



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