第27話暗渠の酒

タカシは場末の古びた居酒屋でビールを飲んでいた。

みずほに3万円渡して、つくづく自分の性格を恨んだ。

あんな淫乱女に救いの手を伸ばしてしまった。

でも、高校生時代は結婚を夢見ていた仲だ。

どんどん堕ちて行く、みずほが心苦しかったが父親の分からない子供を産む行為が理解出来なかった。そうこうしていると、日本酒を飲み始めた。

かなこの事を思い出した。

この女も結婚直前だったが、死別した。

白窪かなこ。

「タカさん」って、今でも聞こえるような気がする。

かなこの記憶は、過去の事はとしているがこの日は酒が回り、昔の事を思い出す。

良い女だった。

だから、余計キツくなる。

あの透き通るような肌色の、美しい女性はもうこの世の中に存在しない。完全に忘れろと言う方がおかしい。


今は大川めぐみと交際している。

今度こそ結婚をしたいと考えているのだが、あまり意識しないようにした。

この女とも、いつかは別れるのだと思っている。

真面目な女だが、どことなく影を背負い、自分と同じ匂いがする。

それに、まだ若い。若さ所以の思考の甘さが出ている。タカシの事を悲劇の男と認識しているようだが、それは間違っている。

立ち直ろうとしているのに、その認識は過去を引き摺る事になるので、普通に接してもらいたいが、生来の気の弱さで女に強く言えない。

仕事では厳しいタカシでも、プライベートではパートナーには甘いのだ。

否、弱いのだ。それを、優しさというのはちょっと違う。

優しさと、弱さは似ているが全く違う。タカシは優しくはなない、弱いのだ。

だから、みずほに3万円渡したり過去の事を思い出したり、現在進行形の恋愛も成功するとは思ってもいない。

飲みながら、めぐみにLINEを送ろうとしたが辞めた。

今夜は1人で思いっ切り酔いたい。翌日は土曜日だから、二日酔いになっても構わない。


日本酒を5合飲んでいた。しかし、酔えない。ウイスキーをロックで飲み始めた。

暗渠あんきょの居酒屋だ。自分に合っている。

自分は太陽にはなれない。

華がない。

仕事は多忙を極めたが、夜に寝酒を飲まないと眠れない。

心療内科受診も頭にぎったが、みずほの姿を見ると自分は精神に異常をきたしてはいないと、そう自分に言い聞かせた。

ウイスキーを3杯ほど飲んだら、暗渠とも言える汚い道を歩き出す。

それは、突然だった。

飲食したものが、喉を駆け上った。タカシは盛大に嘔吐した。何回も。

目からは涙が出ている。

ひと通り嘔吐すると、再び歩き始めてまた嘔吐した。

何故、こんなに飲んだのか?

タカシは理解出来なかった。

そして、帰宅して泥のように眠りについた。


翌日起きたのは、昼の11時だった。

LINEを確認するとめぐみから通知が7件入っていた。

内容は、LINEが返信されないから向こうが心配したらしい。

だから、寝てたって返信してシャワーを浴びた。

昼飯はハーゲンダッツだ。

まだ、胃の辺りがキリキリ痛む。昨夜は完全に飲みすぎた。

しかし、良い酒だった。1人で苦悩する日々が続くのである。

人間に絶対はない。たがら、苦悩するのだから。

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