第26話昔の彼女

いつも通りに、業務に就いていたタカシに1人の女性職員が、

「係長、お客様の対応をお願いします」

と言うので、

「君で良いだろ?」

と返事すると、

「佐山さんっていうご夫婦が係長と話ししたいそうです」 

タカシはその名字に反応した。

『佐山……佐山みづほか?』 

タカシは軽い吐き気をもようした。

カウンターには、みづほのお父さんお母さんが夫婦でタカシを待っていた。

「おまたせしましま。佐山さん」

お父さんが反応して、

「久しぶりだね、タカシ君」

「はい、お久しぶりです。今日はどうかされましたか?」 

と尋ねると、お母さんが喋りだした。


「うちのみづほが入院したの」

「どこか悪いのですか?」

みづほのお母さんはお父さんの顔を見てから、

「躁うつ病で今、精神科の閉鎖病棟に処置入院してるの。今、孫は私たちが面倒みていてね。精神障がい者になったらどんな福祉サービスが受けられるのか、タカシ君に相談したくて。ゴメンネ。みづほはタカシ君に酷い仕打ちをしたのに、こんな時だけ頼っちゃって」

タカシはちょっと待って下さいね。と言ってから冊子を持ってきた。

障がい者のサービス一覧がある。

それと、躁うつ病ならおそらくフルタイムの仕事は出来ないだろうから、障害年金の申請、福祉作業所の案内もした。あらゆる、社会資源を説明した。


「みづほとは、君と結婚すると思っていたが、あのバカ、タカシ君に不義理して、本当に申し訳ない」

とお父さんが言った。

タカシは昔のことで、若気の至りですからと返事した。

自分の元カノが、精神障がい者で閉鎖病棟行きとは少し同情した。

恋愛感情は一切無いが、かわいそうに思えてきた。

ある日、みづほに外泊の許可が降りた日に一緒に喫茶店でコーヒーを飲んだ。

みづほは至って笑顔で端からは精神障がい者とは思えない。

「みづほ、調子はどうだい?」

「ボチボチ。躁状態になると壁を殴ったり、蹴ったり、うつになると死にたくなるの。原因は私にあると思ってる。子供に悪い親よね」

コーヒーを口に運んだタカシは、

「君らしく無い。……そうだ、いい病院があるから、そこでセカンド・オピニオンを受けてみないか?そこの医師は治療法が他とは違うから」

「……違う?」

「薬に頼らない治療法。福祉課では有名なんだ」

「お母さんに言ってみる。それと、福祉作業所と障害年金の申請はこの前したよ。私は初診が会社員だったから、厚生年金と国民基礎年金の両方もらえるって、社会保険労務士が言ってたよ」 

みづほはアイスコーヒーのストローを吸った。


「タカシ、今、彼女いるの?」

「まぁね」

「タカシはモテるからね。でも私は好きでも無い男とセックスしたのか?理解出来ない。そりゃ、タカシに淫乱女って言われるわな」 

タカシはみづほの行為を今でも許してはいない。

ただ、昔の情だけで色々、助けたのだ。

みづほは閉鎖病棟での楽しみは週3回の院内外出で、売店でお菓子を買ってみんなと食べる事だと言った。お金は親に頼っているらしい。

夕方4時。2人は喫茶店を出た。

そして、タカシはみづほにお金を握らせた。

みづほは涙を流して、お礼を言った。

その畳んである札を数えたら3万円だった。

余りに多いので2万円返そうとタカシを追いかけたが、タカシを姿を見失ったため、3万円受け取る事にした。

やはり、タカシを裏切った代償は大きいとみづほは痛感した。

半年後、福祉サービス受給者証と障害年金を手に入れたために、生活保護は貰わなくて済んだ。これも、タカシのお陰なのだ。

みづほは閉鎖病棟を退院すると、働きながら新しい生活を始めた。

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