第24話Monster
受け付けから、大きな怒鳴り声が聞こえてくる。
新人の男の子は、対応出来ずに、
「杉岡係長、助けて下さい」
「どうしたんだ?分かった、オレが対応する。隣に座ってなさい。解決法を学びなさい」
「はい」
タカシがカウンターに座ると、怒鳴り散らしていた女が黙り込んだ。
女は、タカシの顔を見ると顔が真っ青になった。
「タカシ君……」
「お名前を」
「……佐山みずほです」
みずほは気まずい気持ちになった。
「どうしましたか?」
「私、生活保護を受給してるんだけど、子供が将来大学に進学したいと言ったら、それは生活保護の範ちゅうでは無いって言われて」
みずほは、既に6歳の男の子がいる。
「お客様、今はいい制度があるから心配しなくていいよ。世帯分離という手もあります。心配しないで下さい。昔は働きましょうと言う風潮でしたが、今は違います。」
かなこは安心したからか、声が小さくなった。
「大きな声を上げて、ごめんなさい」
「感情的になるのは、君らしくない」
「えっ……、タカシ」
みずほは暫く話し、帰って行った。
「係長、あのお客様、知り合いだったんですか?」
「あぁ、ずいぶん昔のな。それより、改正生活保護法を知ってないお前も悪い。ここは、生活保護の管轄じゃ無いが、こう言うお客様もいる」
「はい。勉強になりました」
昼休み、新人の女の子が声を掛けてきた。
「係長、今夜はお時間ありますか?」
喫煙室でそう言われた。女の子はWinstonを吸っていた。
タカシはハイライト。
「時間?あるよ。今日は花金だから飲もっか?」
「えっ、いいんですか?福祉課の新人集めて、係長の話しをお聴きしたいと思いまして」
「えっ、オレの?」
「はい」
「オレは高卒だし、君ら大卒に教えられる事は何も無いよ」
「課長から聴きました」
「椛山さん?」
「はい。警察官志望だったと」
「ま、昔な」
タカシと、新人3人は居酒屋千代に向かった。
予約を入れていたので、座敷室で飲んだ。
タカシは赤星、男の子2人はハイボール、女の子は梅酒を注文した。
もう、今は「取り敢えず、生」は、死語だ。
「係長、今日は助けてもらいありがとうございました」
手酌で瓶ビールを飲みながら、
「まぁ、色々あるさ」
「僕と彼女は、障がい者手続きをしながらずっと話しを聴いていましたよ。6年も働くとこうなるのか?と」
「私もそう思います」
「まだまだ、オレは甘いよ。課長の仕事ぶりを見てご覧、あの人凄いから」
と、3人は舟盛りを見て暫く刺し身を楽しんだ。
酒も進む。
女の子が、
「係長、彼女いるんですか?」
と、今年入ったばかりの新人は何も知らないので地雷を踏んだ。
「……彼女はいたよ。3年間付き合って、……ガンで死んじゃった」
女の子は大変に申し訳なくなり、すいませんと謝ってきたが、
「良いよ、良いよ、もう過去の事だから」
と、女の子に言うというより、自分に言い聞かせる様だった。
3人の酒の飲み方は、大人しくなった。新社会人、そう言うところも評価の対象になる。
酒を飲んで酔うな!と言ってるのではない。
飲み方に気を付けろ!と言うのだ。
勘定は女の子が1円単位で割り勘でと言っていたが、それはお友達と飲む時だけにしなさい。と言ってタカシが全額支払った。
タカシはモンスター化した、みずほがそこまで落ちたか?と思うと少し同情したが自分で蒔いたタネだ。
オレには関係ないと結論付けた。
新人はカラオケにタカシを誘ったが、断り帰宅した。
かなこの死が、少しずつ薄れていくのを実感した。
タカシはかなこの写真、思い出の品々を廃棄した。
それから、3年後に話は飛ぶ。
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