第23話かなこのエンディングノート
かなこの死から、半年が経とうとしていた。
仕事は多忙を極め、かなことの生活が良い思い出になりつつあった。
ある日、仕事の休憩中、携帯電話が鳴る。
かなこのお父さんからだった。
今週の土曜日、会えないか?と言われて、喫茶店で会うことになった。
「おっ、仕事頑張ってるかい?タカシ君」
汗をハンカチで拭きつつ、かなこのお父さんか現れた。
「お久しぶりです。お父さん」
「お〜い、店員さんアイスコーヒー2つ。4月なのに、もう暑い」
とお父さんは注文した。
「お父さん、今日は何か用事ですか?」
お父さんは、アイスコーヒーにたっぷりとガムシロップとミルクを入れて飲み始め、
「実は、娘の遺品整理していたらね、エンディングノートがあったんだ」
タカシはブラックを飲みながら、
「どうかしましたか?そのエンディングノートが」
「うん。娘は生命保険とがん保険に加入していてね、600万円受け取ったんだ」
「それで?」
「エンディングノートに、タカシ君に200万円渡して欲しいと書いてあって、親の僕からも娘の人生に彩りを添えた、タカシ君に受け取って貰いたいんだ」
タカシは、首を横に振り、
「私はもらう資格ないですよ。受け取れません」
「かなこの最後の願いなんだ。頼むから受け取ってもらいたい」
タカシは色々考えたが、結局、折れて200万円を受け取ることにした。
タカシは、お金には不自由していない。
かなこのお父さんは、現金の入った紙袋をタカシに渡した。
「タカシ君。これで、我々と会うのも最後にしたい。君はこれからの新しい人生を送ってもらいたいんだ。かなこの事は思い出にして欲しい。別の女性と結婚する事を心から願っている」
タカシはどういう表情をしたら良いのか、分からなかった。
2人は店を出て、握手した。
「タカシ君に新しい人生を」
「ありがとうございます」
白窪家とは完全に縁が切れた。自分が現れると、娘の事を思い出すのでそう言う結果になったのかも知れない。
翌年度、タカシは主幹に昇進した。
夜、新人の歓迎会とタカシの昇進祝いを食事処・満ち潮で開かれた。
新人は3人だった。自己紹介と今後の抱負を発表した。
最後に、タカシが挨拶した。
「皆さんの温かい気遣いに感謝しております。本年度から主幹ですが、まだまだ主事と変わりありません。どうか、ご指導ご鞭撻の程をよろしくお願い致します」
椛山課長が乾杯の音頭を取った。
みんな、それぞれで雑談し始めた。
新人3人がタカシに喰らい付いた。
「杉岡係長、24歳で主幹って凄いですね。これから宜しくお願い致します」
「うん、頑張ってね」
「福祉課って、大変な課だと聞いています。業務は大変ですか?」
と、1人の女の子が言った。
「先ずは、当事者の話しをよく聞いてあげること。会社じゃない。事務仕事するばかりが仕事ではないんだ。たまに、大変なお客様がいるけど、2年で慣れるよ。それでも大変なら、オレを呼んで」
と、タカシはハイボールを飲みながら語ると、新人連中はタカシが目標だと言ってい
た。
椛山課長はひょうきんな人で、周りを笑いの渦に巻き込んだ。
実は総務課長の谷田さんは、タカシの親戚なのだ。
だからと言って、椛山以外はその事を知らない。
タカシは新人3人を率いて、バーに向かった。
オールドクロックと言う店だ。
若者たちは、それぞれの酒を飲み、タカシはバーボンをストレートで飲み、チェイサーを流し込む。
ターキーは、ほんのりと甘い感じがする。
新人はまだ、大学生の様な飲み方をした。
だが、静かにタカシが酒を飲む様子を見て、大人だと感じた。
彼の横顔を見た新人は、タカシのオーラに惹かれた。
「君たち、飲み方はどうでも良いけど、早く学生気分を卒業したほうが良いよ」
3人は自らの振る舞いを恥た。
タカシは必死にかなこの事を忘れようとしている。
翌日、障がい者窓口から怒鳴り声が聞こえてきた。
女性の声だ。
新人では手に終えず、タカシを呼んだ。
カウンターに座ると、女性の顔を見た。
その女性は、佐山みずほだった。
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