第20話白っぽい巨塔
術前の説明では、かなこの手術時間は短くて3時間半と説明をタカシは聞いており、家族にもそう告げた。
服部医師は心配ないオペである事を説明した。
実際のCT検査でも、ステージ1の様子だった。
かなこは子供を諦めない位の気持ちで手術を受け、ストレッチャーで運ばれる時に、タカシと家族に手を振った。
オペが始まった。
服部医師の手が止まる。
「……腹膜播種だ」
「服部先生、どうしますか……」
と助手が言う。
「ここまで拡がっていたら、手の付けようがない」
「患者さんはまだ、若いんです。どうにかなりませんか?原発巣の切除でも」
助手は必死に考えたが、服部医師は、
「ダメだよ。全身転移と同じだ。早く閉じよう」
オペ開始から40分で閉じた。
ロビーで待つ、タカシと家族の前に服部医師は声を掛けた。
3時間半のオペ時間の1時間も満たない時間に個室に関係者を集めて服部医師は説明した。
「かなこさんは、残念ながら腹膜播種でした」
タカシは福祉課で、末期がん患者の対応をしていたのですぐに察知した。
かなこの父親は、
「先生、腹膜播種ってどんな具合ですか?治るんですよね?」
と言うと、
「腹膜播種は全身転移と同じです。手術では治りません。また、原発巣を取り除いても結果は同じなので体力の温存の為に閉じました。かなこさんは、ステージ4の末期がんです。既にガンが転移している可能性があります」
家族は頭を抱えて、母親は泣き出した。
「そんな馬鹿な!先生、ステージ1じゃなかったのか!」
と父親が言うと
「播種はCT検査に写らない事が稀にあります」
「うちの娘はまだ、25なんです。ここにいるタカシ君との結婚を夢のように我々に語るんです」
服部医師はこう言った。
「問題は娘さんに、この事を伝えるかどうかです」
父親は、
「ダメです。絶対にダメです。結婚を夢見る娘に、死ぬって言えますか?」
「しかし、娘さんは医療従事者です。隠し通せるかか難しいですよ、お父さん」
タカシは震える声で、
「後、余命はどれくらいでしょうか?」
と尋ねると、
「もって、3ヶ月です」
と服部医師は言った。
暫く話し合い、ステージ4である事を隠すことに決まった。
麻酔から目覚めた、かなこはタカシにオペ時間を尋ねてきた。
「2時間50分だったよ」
と言うと、
「さすが、外科部長ね。私も施設でがん患者のそばにいたけど、いつまで経ってもガンはやな病気だよね?」
と話していた。
家族は顔を引きつらせながらも、出来るだけ穏やかな会話をしていた。
タカシは家族に、余命1ヶ月の花嫁の話しをして、かなこと残りの余命で結婚式を挙げたいと申し出たが、かなこの家族は反対した。タカシの戸籍を汚す事になると。
タカシは、帰宅し冷蔵庫から日本酒を取り出し、記憶が無くなるまで飲んだと思う。
だが、いくら飲んでもタカシは酔えなかった。
自分の彼女がよりによってガンでステージ4とは……。
悲しい顔ばかりしていると、かなこに悟られる。
仕事帰りに、毎日、かなこが入院している大病院へ通った。
抗がん剤治療の結果、かなこの美しい黒髪は抜け落ちた。
ある日、かなこは病院内の施設でウィッグを見つけて、その時の気分でウィッグ色んな色や長さのモノを被った。
日に日に、かなこは痩せてきた。
まだ、入院して1ヶ月なので勤務先の施設からは、基本給は振り込まれていたので、お金には困らなかった。
また、生命保険、ガン保険に加入していたために、多額のお金を手にした。
「ねぇ、タカさん、私ってもしかして末期がん?」
「そんな事はないよ。末期がんだったら、病院抜け出して、この前みたいに寿司屋に行けないじゃん」
「……それも、そうだね。……ありがとうタカさん」
「今は、ゆっくり休め。かなちゃん」
タカシの胸は張り裂けそうだった。
ある日の夕食時に、かなこはスプーンで食事をしようとした。
だが、スプーンが余りに重く感じて食べる事を諦めた。
かなこは、1人でつぶやいた。
「やっぱりね。脳転移か……」
かなこは一晩中泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます