第17話白窪かなこの場合
その日は、真夏の太陽が張り切っている猛暑日であった。
白窪かなこはPTとして、高齢者福祉施設で働いていたが、夜に市役所の人間を含めてビアガーデンに行く事になっていた。
白窪は肌が白く、透き通るくらいの影の薄い女性であったが何かと言い寄る男が複数人いた。
夕方、18時にビアガーデンで飲み会が始まった。
みんなで乾杯して、周りは喋っている。
笑い声が止まない。
その中で1人静かに、ビールを飲んでいる男がいた。
明らかに、周りの男とは違うオーラを醸し出していた。
暗い。
白窪は、その男に声を掛けた。
「初めまして、白窪かなこと言います。お兄さんは福祉課の方ですか?」
男は枝豆を食べながら、
「そうです。杉岡孝志です。ここ五月蝿いから向こうの席で飲みませんか?」
と言った。
白窪は了承して2人で話し始めた。杉岡は白窪を1人の人間として話している。ガツガツ、彼女にしたい男共の感じはしない。
白窪が歳を尋ねると、新成人だった。2歳歳下。
だけど、大人の男の感じがした。
白窪はこの人と仲良くなりたいと考え始めた。
携帯電話の電話番号を交換して、休みに合わせて、2人でデートを楽しんだ。
好きだとか、恋人になって下さいとお互いが言わないうちに、彼氏彼女の関係になった。
話しを聴くと、彼は結婚まで約束した彼女と別れ女性不信になっていた。
だから、その感覚を消し去るのに白窪は苦労した。
2人はエッチの際、コンドームを使わなかった。
子供が出来たら、結婚するつもりでいるのだ。
「タカさん」、「カナちゃん」と呼びあった。
2歳歳下の孝志を白窪は「さん」付けで呼んでいた。
この不思議な男は、プライベートでは仕事の話しは一切しなかった。
タカさんの趣味は、読書。白窪は彼の小説のタイトルを見ると、メルヴィルの「白鯨」だった。
難しい本なので、見ない振りをした。
「ねぇ、タカさん。その小説のどこが面白いの?」
「白鯨を追っかけるところ」
「……あっ、そうなんだ。この本のタイトルは何て読むの?」
「チンセツユミハリヅキ。滝沢馬琴だよ」
「……」
「君は、このマンガ面白いの?」
「あっ、これワンピース」
「ワンピース?」
「面白いよ」
「僕はやめとく。白鯨読んだら、羽弦の『居酒屋』読むんだ」
2人は趣味は違えども、尊敬しあい白窪は彼の事を心の底から愛した。
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