第14話みずほの闘い

タカシが公務員試験に合格したことは、みずほにとって、とても嬉しい事であった。自分自身も看護学校に入学して、看護師として働き始めたら、タカシと結婚する予定だ。 

1月の初めに、入学試験があった。

市内の看護学校。

数学と生物は自信があったが、後は心配。

合格発表まで、夜はあまり眠れなかった。

夢では、不合格の結果を見る。

2月の中頃、親と合格発表を見に行った。

行く途中、父親は、

「みずほ、心配すんな!滑り止めは合格してんだから、軽い気持ちで」

と、悠長なセリフを吐く。

「あの看護学校じゃダメだよ。学費が高いから」

「学費の事を気にしてんのか?」

「まぁね。県外だし、家から通えないし」

「お前は合格したら、もう一人暮らししなさい。結婚の修行だ。どうせ、タカシ君と結婚するんだろ?タカシ君は市役所職員だし。父さんは何も心配していない。彼なら」

自宅から車で1時間の看護学校の駐車場に車を停めた。


2人は朝の10時を待った。

そして、掲示板に職員が張り紙を。

「743……743!あった!お父さん、あった!」

「おっ、合格したな!みずほ、おめでとう。早速、お母さんに電話しなきゃ、公衆電話はどこだ?」

当時は、携帯電話なんて無い。あっても、警察ぐらいだ。

「もしもし、お母さん?……合格したっ!……うん、うん、ありがとう」

その日晩は、家族で焼き肉屋に行き、みずほの合格祝いをした。

夢への第一歩。まずは、市内の看護学校に合格。卒業、就職。そして、結婚。

その晩、焼き肉から帰宅して、お風呂に入った後、電話の子機を自室に持ち込み、タカシの家に電話した。

出たのは、タカシのお母さんだった。

向こうの声が聴こえる。お母さんはタカシを呼んでいる。

「もしもし、みずほ?」

「うん。タカシ、私、看護学校合格した!」

「マジか?良かったな。おめでとう。明日は、登校する。学校に置いてある私物を引き取りに行くから。後、2週間したら卒業式だな」

「そうだね。まだ、付き合って1年記念もしてないのに、会えなくなるね」

「土日は、遊びに来いよ。オレ、市役所の近くに引っ越すから。みずほは自宅から通学?」

「ううん。私も一人暮らし。学校が慣れたらバイトするつもり」

「そうか。明日、学校帰りに最後のグラッツェ行こうよ」

「うん。この前、タカシ、カルボナーラにタバスコかけてたけど、美味しいの?」

「ありゃ、失敗だった。最後のパスタはキノコパスタだな」

「じゃ、私はほうれん草パスタ」

「おめでとう。話ししたいから、明日は家に泊まりに来なよ」

「そうする。お父さんが、タカシ君なら安心だ!って言ってた。お母さんは妊娠だけは気を付けなさいだってさ」

「アハハ。妊娠?大丈夫大丈夫。じゃ、明日。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

タカシはガッツポーズをした。

2人の未来は安泰だと、誰もその時までは信じていた。

タカシは、ドラッグストアにコンドームを買いに出かけた。

その時、彼は口笛なんぞ吹き、おめでたい男である。

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