第13話二学期

楽しい夏休みも終わり、二学期が始まるとタカシは大学を進学しない為、明らかに授業を聞かなくなった。

授業中、公務員試験問題を解いていた。

みずほはそのタカシの姿を見て哀れんだ。

きっと、大学に進学したいはずなのに就職するとは。

タカシのお母さんは、徐々に体調が回復しているようだが、働ける体には戻っていないと聴いている。

また、タカシは1日3時間のコンビニバイトを始めたの知っている。

タカシがバイトじゃない日は、みずほとグラッツェでパスタを食べていた。

今日は、タカシはペペロンチーノでみずほはカルボナーラだった。

いつもの様に、ずるずるパスタを食べながらタカシはこう言った。

「なぁ、みずほ。みずほが看護学校を卒業したら、結婚しよっか?」

みずほは、暫く沈黙してから、

「うん」

と答えた。


2人は未来に希望を持っていた。子供は3人欲しいとか、マイホームを建てたいとか、話し始めた。

二学期が9月の頃、タカシは地方公務員試験を受験した。

市役所の受験。

タカシは手応えを感じていたが、11月の合格発表まで眠れない夜が続いた。

そして、合格発表の日。

タカシは掲示板に表示された自分の受験番号を確認した。

「……ヨッシャ!」

当然の如く、タカシは市役所職員試験をクリアした。

夜、みずほに電話した。

「みずほ、合格だったよ。3学期からの補習は出ないから」

「おめでとうタカシ。私は一月に試験だから、待っててね。タカシ君のいない学校はつまんないな」

「たまに、顔を出すよ。もう、3学期は大学受験のやつらしか登校しないんだから。みずほ、オレはバイトを頑張ってスーツを買いたい。ネクタイはみずほが選んでよ。5本」

「分かった。取り敢えず、おめでとう会しよっか?」

「それは、みずほの進学が決まってから」

「うん。そうだね。私も頑張らなくちゃ」

「じゃ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


タカシの両親は、その晩お祝いを開いた。父親はしこたま酒を飲んだ。母親は、出前の寿司と手作りの唐揚げを準備した。

「なぁ、孝志。後、2年後には一緒に酒を飲めるな?」

「うん。公務員だから、未成年飲酒と喫煙はしないよ。マイルドセブンが吸いたい。コンビニで、よくマイルドセブンが売れるんだ」

「タバコは辞めとけ。父さんは、禁煙するのに苦労したぞ」

「ふう〜ん」

「兄ちゃん、タバコ似合わないよ」

と、弟が言ったが

「酒とタバコは大人の証拠。吸うよ。うまいなら」

「兄ちゃんが、タバコねぇ〜」

母親はその様子を複雑な気持ちで、見守っていた。息子の大学の夢を潰してしまったと。だが、就職氷河期。市役所職員なら食いっぱぐれが無いと考えていた。

タカシが嬉しそうに寿司を食べている様子を眺めて、目頭が熱くなった。

二学期の終わり、クリスマスと言うのにみずほはタカシを相手しなかった。

看護学校の受験の直前だったからだ。

タカシは静かに見守った。

夜、家の電話が鳴ったのは2月の中旬だった。


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