第56話 王国の使者は驚き、カナデは使者の願いを無視する
――カナデside――
王国より使者が来た時、ダンジョンに入る許可を曾婆様は出さなかった。
そこで、ダンジョン外での対応となったが、使者にとっては不服以外の何物でもなく、何故外でなのかと問い詰めようとしたその時、俺の顔を見てハッとしたようだ。
「お前はっ!! 勇者の奴隷!!」
「元、ですよ。初めまして、キヌマート創立者の血縁者のカナデです」
「キヌマートの血縁者っ!?」
これで大体の事は悟っただろう。
何故キヌマートが王国を毛嫌いしているのか。
無理やり創立者の血縁者を奴隷に堕としたのだ、許される筈がない。
「申し訳ありませんが、お会いしたくないと仰って暫く戻ってこないそうですので、私が対応いたします」
「お会い……したくない?」
「それはそうでしょう? ご自分の血縁者を奴隷に堕とした国に会いたいという方が珍しい」
「「「「っ!!」」」」
「色のいい返事は一切しないという事です。王国に呼ばれても行かないと仰っていました」
「な、なんという事だ……」
そう言って書簡を握りしめて膝をつく使者には悪いが、曾婆様はああ見えて家族思いな所がある。
「孫の顔も覚えてない」「曾孫の顔も覚えてない」と言いつつ、実は一人一人覚えているのが曾婆様なのだ。
孫、曾孫の名前を間違えた姿を、俺は一度も見たことがない。
それくらい家族思いの曾婆様を怒らせたのだ。当然の結果と言えるだろう。
「我々は勇者に言われて仕方なく」
「それは結果論に過ぎません。事実奴隷に堕とされた姿を見たキヌ様は大激怒しました」
「っ!」
「それら諸々結びついて、人間王国とは取引しないという事です。魔王領だけで事足りますからね」
「そ、そこを何とか、カナデ様のお力で」
「え? 俺も反対しますよ?」
「……え?」
何を寝ぼけた事を言っているんだ? と怪訝な顔をして「自分を奴隷に堕とした国を許す筈無いでしょう?」と口にすれば、最早言葉がないとばかりに膝をついてガタガタと震えている。
いい気味ですが、彼は城に変えれば斬首刑ですかね?
色いい話を持って帰れないのですから。
「それと、勇者と魔法使いならダンジョンにいますよ」
「な、ダンジョンで何をしているんです!? 戦闘も何もない場所だと聞いていますが!」
「それこそ、あなた方に言う必要も無いでしょう?」
「そ、そんなことはありません! ダンジョンの中の事をお教えください!」
「そうですね、一言で言えば……【楽園がそこにある】と言う事くらいでしょうか?」
「楽園……?」
思わぬ言葉でしたかね?
魔王領にあるダンジョンだからとんでもない戦闘が行われているとでも思ったんでしょうか?
そんな筈ないでしょう?
皆さん夢を見ているんですよ? まさに楽園です。
第一層にいらっしゃる方々はまだ、人間界の事を気に掛けるだけの脳をお持ちでしょうが、ポイントが溜まれば第三階に行って脳を破壊するだけの香りが充満した場所で、もう二度と人間の世界がどーだとかあーだとか考えるだけの力は残ってないでしょう。
香りが無い場所でも早く魔王領のダンジョンに帰りたくて仕方ないでしょうね。
だって、【楽園】が待っているんですから。
楽園に染まったものから魔族と結婚して人間界を捨てていく。
特にSランク冒険者やAランク冒険者が多数人間界を捨てました。
相性のいいサキュバスたちの繁殖相手になった訳です。
実に光栄な事でしょう。
「人間界のしがらみだの責務等、どうでもよくなる楽園なので、冒険者が帰りたがらないんですよね」
「な、な、なっ!?」
「ああ、お金があれば一般人……は無理にしても、大臣クラスならまぁ……」
「な、何を仰っているんですか!!」
「ああ! 王太子なら十分に楽しむことが出来ると思いますよ!」
そう今思いついたかのように笑顔で言うと、使者は立ち上がり俺に詰め寄った。
「我が国の王太子をこんな野蛮な所に何て」
「その野蛮な所のキヌマートの料理だけを食べていたのは何処の何方でしたっけ?」
「くっ!!」
「説得力皆無ですねぇ~」
「な、なぁ。困るんだよ。キヌマートとの契約が取れないと俺達の首が掛かってて」
「お気の毒に~」
「君が首を縦に振ればなんとかならないのか?」
「なりませんねぇ。血縁者の、お店ですし」
「くっ」
「本当に残念です。俺を奴隷に堕としたばかりに自分たちの首が飛ぶんですから」
そう微笑んで口にすると使者はビクリとして震え、下を向いて脂汗を搔いている。
スキルは使っていない。
だが、帰ったらどうなるか……と言うのを嫌と言う程感じ取っているのだろう。
お可哀そうになんて一切思っていないが、ザマァないなとクスクス笑う。
「色いい返事を何度期待しても無駄ですよ? キヌ様は相当お怒りですから、お金で解決しようとしても無理でしょう。金なら腐る程あるんですから」
「くぅ……」
「一体何を取引に使われるんでしょうね? 国王の命なら喜びそうですが」
「な、なんという事を!!」
「血縁者は結構過激なんですよ。それくらいのモノを用意しなければ頷きませんよ?」
そう最後に伝えて、「これ以上話すことはありませんね。お引き取りを」と口にするとダンジョンの中に入っていく。
必死に追いすがろうとしたけれど、カテリナとノルディシーに阻まれ近寄る事も出来ず、雄叫びを上げている使者を放置してダンジョン内へと消えていった。
さて、しっかりとお断りを入れたのですから、後はどうなるでしょうね?
本当にこれからの王国が見ものです。
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