第57話 大事な【何か】を放置し、キヌマートの事で荒れる王国①

 ――王国side――



 食べたくてしょうがないキヌマートの料理。

 そのキヌマートへの書簡を受け取られる事も無かったことに怒りを露わにしたワシじゃったが、それ以上に不味い事をしたのだと知ったのは――キヌマートの血縁者である男を、勇者の奴隷に堕としたことで創業者が本気で怒っているという事実だった。


 血縁者を何の非もなく奴隷に堕としたのだ。

 この事実を知っているとなると、キヌマートが王家に対して恨みを持っているのが嫌程分かる。

 だからこうして書簡を受け取らず、色いい返事を一切することなく、商品を買う事すら拒否されたのだろう。



「おのれ勇者めぇ~~!!!」

「ですが、その時にキヌマートの血縁者とは知りませんでしたし」

「それはそうだが!!」

「所詮は庶民でしょう? 金銭で事なきを、」

「それが、金は腐る程あるから金銭での謝罪等求めていないとの事で」

「……それは、困りましたね」



 金銭で謝罪すれば大抵の事は握りつぶせると思っていたワシも、此れには頭を悩ませた。

 どうすればキヌマートから食事や甘味を買えるだろうか……。

 やはり魔王に提案するしかないだろう……。魔王が良しとすればキヌマートも考えを改めるかもしれない。

 キヌマートの為に和平交渉と言うのもあれだが……無いよりはマシだ。



「仕方ない。魔王と和平交渉しよう。それしかキヌマートを呼び寄せる札がない」

「ですが、今回の魔王は和平交渉に臨むでしょうか?」

「前回不意打ちで魔王を殺していますからね……」

「今回不意打ちで魔王を殺そうものなら、それこそキヌマートとの縁が切れてしまう。殺すことは目的とせず、あくまで和平に持ち込むのだ」



 そうワシが伝えると「ですが魔王を放置していいのですか?」と聞かれた為、ワシもうなり声をあげた。

 魔王と言う存在は危険すぎる。

 故に死んでもらわねば困る存在ではあるが、今回はキヌマートを人質にとられているようなものだ。

 どう足掻いても、和平に持ち込むしかなかった。



「悔しいが、今の魔王はキヌマートと良好な関係を築いている。キヌマートとワシらが良好な関係を築ければ、魔王等殺してもいい存在だと思っているが」

「その為には、まずは和平交渉……と言う訳ですね」

「うむ。忌々しい魔王め。そもそもキヌマートの創立者もそうだ。たかだが自分の血縁者が奴隷に堕とされたくらいでなんだ!」



 そう怒りを露わにするワシだが、それすらも魔王に見られているとは思いもよらない。怒り心頭でキヌマートの創立者に文句を垂れながし、「奴隷一つでガタガタ抜かすな!!」と叫び声をあげると、王太子はクスクス笑いつつワシに声を掛けてきた。



「ですが、その元奴隷を連れて帰ればキヌマートの創立者も来たのでは? ただの奴隷であっただけで戦いの仕方など知らない異世界人でしょう?」

「ふむ……」

「こちらが人質に取ってしまえばいいのですよ。次に行くときにまた元奴隷がいれば捕まえてキヌマートの創立者と取引をすればいいのです」

「それもそうだな!! 名案だ!! おい、騎士数名を連れて今すぐ行ってこい」

「は、はい!」



 そう伝えると休む暇も与えず次なる一手の為に騎士団を連れていかせ、ワシは出来た息子を持って誇らしくなった。

 そうだとも、こちらが有利になればいいだけの話だ。

 失敗する筈がない。



「そう言えば、おかしなことを言っていたな」

「ええ、魔王領にあるダンジョンですね? 『楽園』があるとかなんとか」

「それで冒険者たちが戻らないのなら、こちらも騎士団を用意して討伐に向かう義務が出るというものだ。キヌマートの事が片付いたらすぐにでも用意せよ」

「では、その指揮は私が」

「うむ!」

「騎士団総出で必ずやダンジョンを壊して見せましょう」

「ははは!! 期待しているぞ」



 まずはダンジョン攻略。

 魔王領に『楽園』があるなど許されることではない!!

『楽園』は人間が持っていて然るべきものなのだ!



「全く、妙な魔王だな……。そもそも行った冒険者も勇者も戻ってくる気配すらない」

「それだけのめり込める楽園と言う事でしょうか?」

「フン! そのような楽園を魔王が作れるとでも?」

「……人間の事を知り尽くしている気がするんです。今回の魔王、危険かも知れません」



 神妙な顔でそう呟いた王太子に、ワシは顎に手を乗せ「確かに妙だな」と口にするが、どう妙かと言われてもピンとこない。

 攻撃を仕掛けてくる訳でもなく、こちらは冒険者を嗾けた。

 所がだ、その冒険者をいとも簡単に手懐けさせたのだ。

 考えてみれば妙だが、どう妙かと言われても本当に言葉に出来ない。


 ――やけに、人間の事を熟知している。

 そう思える魔族が生まれているという事だろうか……。



 そうなると、長い事人間世界で生きて、人間の事を知り尽くした上級魔族が魔王になっている可能性が高い。

 討伐も心して掛からねば……あっという間にこちらが籠絡するだろう。

 偵察隊を出すのも……致し方ないか。

 キヌマートの事を進めつつ、偵察隊を出す事を決め、直ぐに集められた三人の精鋭部隊に魔王領ダンジョンへと向かって貰う。


 定期的に手紙で連絡を寄越すように伝え送り出したのだが、後にキヌマートのカナデを手に入れようとしてこちらが殺されてホームに戻ってくる羽目になり、カナデを守っていたのが四天王二人だったという事も判明しゾッと恐怖した事や、魔王がいかにキヌマートとカナデを必死に守ろうとしているのかを知り、やはり謝罪と同時に和平交渉するしかないと判断することになったのだが――。




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